【第1話】

『RTF』~Fesonne(フェゾーネ)!!への道~ Side No Limit

WIXOSS LANDスタジアム観客席

エリアの融合という未曽有の事態をなんとか乗り越え、仮想空間WIXOSS LANDでいつも通りのバトルを楽しんで過ごしているDIVA達。
そんな中、『No Limit』のメンバーであるアキノは、勉強のために他チームのDIVAバトルを観戦していた。

「なるほど。さっきのは、あえてアタックを受けてライフバーストを発動させるっていう作戦なんだ……」

仲間であるヒラナとレイは、もちろん自分の手など借りなくても十分強いDIVAではある。しかし、ライバル達もみんな強い。
少しでもたくさんの“勝ち”を引き寄せるために、時間があるときにはスタジアムに足を運ぶようにしていた。たくさんのバトルを見ることで、得られる知識はあるはずだ。

「えーと、ここから相手が出してくるシグニが何かを想定してみると……」
その時、会場のセレクター達の声援が響く。バトルの決着が着いたらしい。

「えっ、もう終わり!?まだ考えてたのに……」
アキノはため息をつき、メモを取っていたノートを閉じて立ち上がると、出口に向かって歩き始める。
すると、突然辺りの装飾が一斉に切り替わった。水色とピンクで描かれた鮮やかなペナントやポスター。そして軽快な音楽が流れ始める。後ろからDIVAやセレクターの歓声も聞こえてくる。

「何だろう……新しいイベントの告知かな?」
振り返ってスタジアムのメインモニターを見ると、近日開催される大型イベントが公表されたようだ。

『この夏!ついに伝説のフェスイベント開催!』……?」


翌日、学校での昼休み

「ふぇ、すっふぉいはのひほー!」
お弁当のから揚げを口に含んだまま、ヒラナが目を輝かせた。

「食べながら話さないの」
すかさずレイが注意をする。

「昨日、WIXOSSLANDから告知のメールが来てたわよ。バカンスエリアで開かれるDIVA憧れの舞台…ライブフェス『Fesonne(フェゾーネ)!!』と、それに出場するための2ブロック、トーナメント式DIVAバトル『RTF』。かなり久しぶりの開催みたいね。」

「そうそう『RTF』……つまり『Road To Fesonne!!(ロードトゥーフェゾーネ)』で各ブロックの1位になると、『Fesonne!!』でスペシャルパフォーマンスをさせてもらえるんだって!過去にはそのパフォーマンスの反響が良くて、オリジナル楽曲でのメジャーデビューにスカウトされた事例もあるって言ってたよ。

「メジャーデビュー!?すごっ……!」
スケールの大きな話に、3人は興奮気味だ。

「告知映像を見た感じ、『Fesonne!!』のステージはプールもあって、まさに『夏』って感じだったよ。もし自分があんな大きな舞台に立ったら――って想像したら、足がすくんじゃった……」

「確かにあのレベルのステージにはまだ立ったことないものね」

「うん……でもいつか自信がついたら、挑戦してみたいなーとも思ったかな」
そう苦笑いするアキノを、じっと見つめるヒラナ。

「ど、どうしたのヒラナちゃん?」
ヒラナは身を乗り出して、アキノの顔に自分の顔をぐいっと近付けた。

「ねぇ、そのイベント、エントリーしようよっ!」
一瞬の間のあと、何を言われたのか理解したアキノが驚きの声をあげる。

「え、えええっ!?」

「だって、自信なんて待ってても身に付かないでしょ!?限界を超えて、挑戦して、そうやって実力をつけていくからこそ、自信が持てるようになるんだよ!」

「そ、それは……」
ヒラナの勢いに押されて、アキノは身を少し退く。

「まったく……ヒラナはたまに核心をつくことを言うんだから、驚くわね」
肩をすくめるレイは、そう言いながら感心している様子だ。

「でも確かに、それはそうよ。たくさんの壁を乗り越えてこそ、自信がつくもの。そしてその『壁』のひとつが、このイベントだとも言えるってこと」

「う……」

「それに……勝ち抜いて、強いDIVAとして『Fesonne!!』の舞台に立つことは、私のひとつの夢でもあるわ」
ふたりがやる気を見せているのに、アキノもその腰を折りたくはない。

「……分かった……エントリーしよう……!」
決意したアキノの言葉を聞き、さらにヒラナが「そうだ!」と何かを閃いた。
「今回のセンターはアキノちゃんにしよう!」

「なっ!?何でそうなるの、ヒラナちゃん~!」

なんとかエントリー自体の覚悟を決めたというのに、さらに自分がセンターと言われたら困惑せずにはいられない。

「だってほら、アキノちゃんが開催を教えてくれたんだし」

「そんなの理由にならないよ~!それに、センターは前もやったし、大舞台なら余計にいつも通りヒラナちゃんのセンターの方が安定すると思うし……!ね、レイちゃん!?」
アキノは焦りながらレイに助けを求める。

「うーん、そうね……確かに慣れている構成の方が安定はすると思うけど……」

「うんうん!」

「対戦相手に対策を練られるリスクはあるし、変化球でサプライズを仕掛けるっていうのも面白いかも?」

「なんでそうなるのぉ!」

「レイちゃん、今日はなんだかあたしの味方をしてくれるねぇ~♪」
自分の意見に賛成してもらえて、ヒラナはご機嫌である。

「別に味方とかじゃないわよ。ただ作戦として『アリ』っていうだけ」

「待って、でもそれならレイちゃんがセンターっていう選択肢もあるよね!?」
アキノはなんとかこの状況を抜け出せないかと、反論を試みる。

「でも私は今まで他のチームで散々センターをやってきたし……ある程度戦い方が知られていると思うの。記事なんかでも出ているし」

「うぅ……」
熱量と口でふたりに勝つのは、なかなか大変なことだ。

「アキノちゃん、最近はよくDIVAバトルも観戦して勉強してるし、その成果を出すチャンスだよ!」

「そうね。アキノのスタイルで戦って、『No Limit』が勢いだけじゃない、底力のあるチームだと見せつけてやりましょ」
アキノはふたりにそう言われ、確かに必死に勉強しても、得た力を発揮する時がないと意味がないと思い始めた。今こそその時――大舞台に挑戦するからこそ、いつもと同じではなく、さらなる力で臨むしかないのだ。

「……分かった、私……、センターやるよ!」
アキノの言葉に、ヒラナとレイは顔を見合わせて笑顔になる。

「そう言ってくれると思ってたよ~アキノちゃん♪」
抱き着いてくるヒラナを制しながら、アキノは真剣な眼差しで話し続ける。

「その代わり、DIVAバトルの練習だけじゃなくて、パフォーマンスを見据えて歌とダンスも猛練習、だからね!」


某レンタルスタジオ

「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっとカロリー補給を……」
ダンスの練習中、お菓子に手を伸ばすヒラナ。

「ちょっとヒラナちゃん……!私がダイエットしてるの知ってるのに、目の前でお菓子なんて……!」
アキノにそう言われても、ヒラナはその手と口を止めない。

「そんな、ダイエットなんてする必要ないのに~」

「ダメだよ、『Fesonne!!』はWIXOSS LANDのバカンスエリアで開催されるんだよ……!?もし水着で人前に出ることになんかなったら、私っ……!うう……」

「そんなの大丈夫、大丈夫。実際見られるのはDIVAの姿なんだし。ほら、疲れてる時にこのジュース、最高だよ」

「うぇ~ん、それでも嫌なのー!やめてよぉ~!」
そんなヒラナとアキノのやりとりを見ているレイは、自分達が水着でステージに立っている姿を想像していた。

「……」
並んで踊るアキノと自分。つい胸元に目が――。

「……どうしたの、レイちゃん?何か分からない振り付けでもあった?」
想像の中でではなく、本当に目の前に『それ』が現れた。

「どぅあっ!?」
ついおかしな声が漏れる。

「んんっ……何でもない。あ、遊んでないでさっさと練習を再開するわよ!ほら、ヒラナも!」

「は、はぁい~!」
咳払いをしてアキノの問いかけを煙に巻き、下らない想像をした自分を忘れるように、レイは真剣に練習に打ち込むのだった。


一方、WIXOSS LAND。

「ねぇ、ピルルク」

「「なに?」」
ユヅキが話しかけると、同時にふたりの『ピルルク』が振り向いた。

「あ、えーとごめん、アロス・ピルルクの方」

「あら、思いがけずややこしいことになっていますわねぇ」
アンが手を口元に当てて笑う。

「まさか同じ名前のルリグが同時に存在するなんておもしろいっすよねぇ~!」
エルドラも嬉々としてその様子を楽しんでいるようだ。

「ま、全く同じ名前ってわけじゃ……」
当人のアロス・ピルルクが返答に困っていると、ピルルクが被せるように話し始める。

「詳しいことはいいでしょ。この子もこっちに来ていたと知った時は少しショックだったけど、無事と分かったからには名前なんて……」

「そうは言っても、区別しないと困ることもあると思うけど」

「そうだね、今みたいなことが今後も起こるだろうし」
ピルルクの言葉に、花代と緑子がどうにかするべきだと提案する。

「でも……」とピルルクとアロス・ピルルクが顔を見合わせ、一瞬の沈黙のあと――。

「アロピ……」
その沈黙を破るようにユヅキが呟いた。

「却下」
何とも格好がつかない音のあだ名を、アロス・ピルルクではなくピルルクの方が間髪を入れずに却下をする。

「え~かわいいと思うんだけどなぁ」
いい案が思い浮かんだと思ったユヅキは、検討する間もなく否定されたことに不服そうだ。

「ま、まぁ……アロピもかわいいけど、普通に『ピルルク』と『アロス』で呼び分ければいいんじゃないかな?」
緑子が助け舟を出し、当人達も納得をしたので、呼び方はそう統一することになった。

「それで、呼び方が決まったところで、もともと話していた『Fesonne!!』の件はどうしようか?」
ユヅキが全員を一目する。

「私はちょっと気になってるよ!こっちに来てからみんな少し暗いっていうか、精神的に参ってる部分があると思うんだ。『Fesonne!!』はお祭りみたいに盛り上がるみたいだし、『RTF』は大変かもしれないけど、ぱぁっと気分転換するのもいいんじゃないかな?」

「そうね……正直意味があるかは分からないけれど、まだこの世界にいるしかないのなら、そういった娯楽を楽しんでもいいと思うわ。塞ぎ込んでいても仕方ないもの」
ユヅキの提案にピルルクも賛成し、続ける。

「私は少し休憩したいから不参加にするつもりだけど……」

「ちょっとそういうのタイプじゃないんで、パスっす~!」
ピルルクとエルドラは不参加を申し出たが、他のメンバーは参加することになった。

「じゃあ、これで3人組を組むとして……」

「あらぁ、みなさんお揃いでどうしたんですかぁ?」

「も、もしかして何か良からぬことの相談とか……?」
ユヅキがチーム分けを考えようとした時、ふたりの人物が声を掛けてきた。

「ママさんにグズ子さん……今までどこに行っていたのですか?」

「アンさんも一緒なんですね。私達は少しお散歩してただけですよ。ねぇ、グズ子さん?」

「は、はい……そしたら何やらみなさんが集まっているのが見えて……」

「ちょうど良かった。今『RTF』に出るチームを考えようとしてたところで……。ふたりはどうしますか?」

ママとグズ子は意外にも『Fesonne!!』に興味がある様子で、話した結果、ユヅキと花代と緑子、アロスとママとグズ子が同じチームでエントリーすることになった。アンは何やら音楽にこだわりがあるらしく、パフォーマンスでの方向性が合うメンバーを探してみるらしい。

「よし。じゃあトーナメントに勝ち残れるように、お互い頑張ろう!」

「お~!」

緑子が一同を鼓舞すると、各チームに分かれて練習を始める。


――数日後、ついに『RTF』が開幕し、どんどんトーナメントが進んでいく。
今回はバトルだけではなく専用のパフォーマンスの練習をしているだけあり、敗退してしまったチームの悔しさはいつも以上だ。

DIVAバトルの様子は、WIXOSS LAND中に中継されており、どこからでも楽しめるようになっている。滅多にない盛大な催しに、DIVAのファンであるセレクター達も応援に身が入る。

そんな中、Aブロックの決勝戦は『No Limit』とユヅキ・花代・緑子の『CONNECT』に決まった。

『CONNECT』の楽屋では、ユヅキ達がどこか落ち着かない様子で戦い方の確認をしていた。

「ユヅキ~!花代、緑子~!」

突然ドアが開き、勢いよく入って来たのはタマだ。

「タマー!来てくれたんだ!」
飛びついて来るタマをユヅキが受け止める。

「タマきたー!みんな、さっきのバトルかっこよかった!」

「ありがとう、見ててくれたんだね」

「うんっ!」
笑顔で話すタマが楽しそうで、3人の緊張がほぐれていく。緑子が楽屋に設置されているモニターに目をやった。

「今日はどこにいてもバトルが見られるからいいよね。少し前にやった準々決勝のアン達のステージをここで見てたんだけど……」

「『いきますわよ、みなの衆!さあ叫び、舞い、この夏を踊り倒しましょう!』」
右手をマイクに見立て、左足を椅子の上にあげながら、ユヅキがセレクターを煽るアンの真似をして見せた。

「……ぷっ」

「くっ……ユヅキ、真似うますぎ……っ」
花代が思わず吹き出し、緑子は何とかこらえている。

「……人格変わりすぎだって。あれが『方向性』ってやつなのかな」

「アン、こわ~い!」
タマがきゃっきゃと笑いながら飛び跳ねていると、ドアの方から大きな咳払いが聞こえた。

「おほんっ」

「……っ!」
全員が一斉にそちらを見ると、照れているような怒っているような、微妙な表情をしたアンが腕を組んで立っている。アンとチームを組んだミルルンとミュウも一緒だ。

「アンの物真似、カ・ン・ペ・キる~ん!」

「そっくりだったね」
ふたりにそう言われたことで、完全に本人にも物真似を見られたことが確定し、目を逸らすユヅキ。

「あー……」

「決勝戦の激励に来たのですけれど、盛り上がっている最中でしたかしら?」
そう言うアンは、口元は笑っているが目が笑っていない。

「あ、いや、え~っとぉ……」

「あれ、みんな揃ってるー!お疲れ様~!」

「アロス!ママとグズ子も!た、助かった~……」
このタイミングで3人が来てくれたことに、ユヅキは心から感謝した。緑子もすかさずアロス達に話しかける。

「今、アン達のステージすごかったねって話してたところだよ……あはは」
アロス・ママ・グズ子はトーナメント前半で敗退してしまったため、モニター越しではなく、実際に会場でステージを見ていたらしい。

「ミルルンさんとミュウさんのダンスもとってもかわいかったですよ~!」

「思わず体が動いてしまいました!」

とりあえずアンの圧から逃れられたようで、ひと安心のユヅキ達。みんなが来てわいわいとした雰囲気にしてくれたことでリラックスすることができ、「自分達らしく戦えばいいんだ」と決勝への準備を進める。

そしてもう一つのAブロック準決勝への進出チーム――『No Limit』の楽屋では、センターを務めるアキノがデッキを見つめて「うぅ~」と唸っている。

「ど、どうしよう……やっぱりこのカードやめた方がいいかな?さっきいいところで来なかったし……」

そんなアキノの様子を尻目に、ヒラナは3個目の『RTF限定特定アイス』を食べている。ピンクと黄色の鮮やかなアイスだ。

「大丈夫だよ、アキノちゃん。しっかり考えて組んでデッキなんだから、信じよう?直前で悩むより、このアイス食べて楽しんだ方がいいよ~」

「だ、ダメだよ、せっかく少し痩せたのに……!」

「……WIXOSS LANDでなら大丈夫だと思うけどなぁ」

「だとしても、ヒラナは食べ過ぎだけどね」
レイが冷静に突っ込みを入れた時、ドアをノックする音が聞こえ、D・X・Mの3人が入って来た。

エクスの手には、紫と赤のアイスが握られている。

「あー!それ迷って諦めた味のアイスだ、いいなぁ!」

「……ちょっと、ヒラナ。第一声がそれなの?せっかく応援に来てあげたのに」

「あっ、ごめんごめんエクス!来てくれてありがとう!」

「私達は特別枠でバトル免除だからね。見ててあげるから、せいぜい頑張りな。『Fesonne!!』で待ってるよ!」

「……うんっ!」

「さて、わざわざトップディーヴァに声掛けに来てもらったからには、負けるわけにいかないわね。絶対『Fesonne!!』に出演するわよ!」
決勝戦の時間になり、レイが立ち上がった。

「もっちろん!アキノちゃんのダイエットを無駄にはしないんだから!」

「もう、ヒラナちゃんってば……うぅ、でもありがとう……頑張ろうねっ!」
3人で気合いを入れ、バトルフィールドに出て行く。

そして――。

Aブロックの決勝戦を制したのは、『No Limit』。中盤までは『CONNECT』の安定したバトル展開に押されていたが、焦らずにアキノらしい守りを貫いた上、最後に相手の意表を突く怒涛の攻撃で見事ライフクロスを削り切った。

「さっすがアキノちゃん! すっごいハマってたよね!」

「ええ。相手も予想外のデッキ構成に戸惑ってたわ。アキノのWIXOSSの知識は本当に力になる」
ヒラナとレイに褒められ、むずがゆいながらも嬉しいアキノ。しっかり準備して来たからこその結果に、喜びを感じていた。

しかし、次はついにスペシャルパフォーマンスの時間。もちろんパフォーマンスについてもたくさん練習したし、できることはしたつもりだ。しかしまだ不安はある。時間ぎりぎりまで振り付けや立ち位置の確認をしておきたい――そう思い、パフォーマンス用の曲を再生したその時。

「お邪魔するわよーーーーーーっ!」

楽屋のドアが勢いよく開いたかと思うと、みこみこ・ゆかゆか・まほまほの3人が入って来た。

「……今日はお客さんが多いわね」
集中したいのに、とレイがため息をつく。

「ちょっとちょっと、あんた達!あんなパフォーマンスで『Fesonne!!』の舞台に立つつもり!?」
そう言ってみこみこがアキノに詰め寄る。

「あ、あんなって……私達も一生懸命練習して……」

「あ・の・ねぇ!歌や振り付けを完璧に覚えたからって何!?そんなのは当たり前。セレクターや観客に、自分を見てもらうっていう意識はあるの!?」

「自分を、見てもらう……」

「そうよ。今のままじゃとても納得がいかないわ。ステージに立ちたければ、今ここで私達を倒してから行くことね!」

「ええ!?」
一方的に説教をしてくるみこみこ達にアキノは戸惑うが、ヒラナとレイがそんな時間はないと楽屋から追い返そうとしている。
しかし、確かにパフォーマンスの出来にどこか足りないものがあると感じていたアキノ。

もしかしたらアイドルDIVAとして活動しているきゅるきゅる~んなら、それが分かるのかもしれないと思い始める。

「ねぇ、どうしたらステージ上でみんなを魅了する立ち振る舞いができるの?」

「ふん、そんなのも分からないなん……」

「お願いっ、教えて!!」

「あ、アキノちゃん!?」
思いがけないアキノの言葉に、その場にいた全員が驚いた。喧嘩を吹っ掛けたつもりのみこみこも、逆に食い気味に教えを乞われて動揺している。

「え、いやちょっと……」

「お願いっ!!」
結局一歩も引かないアキノに根負けし、みこみこ達はパフォーマンスをする際に意識することを教えることにした。

「動きは大きく、どの席からでも見えるように」「振り付けに合わせて目線も動かして」「観客は自分を見に来ているのだという気持ちで」と、様々なアドバイスをすると、その的確な言葉にアキノだけではなくヒラナやレイも納得。素直に教わって練習をするのだった。

「意外とみこみこ達も役に立つじゃん!ありがとね!」

「くっ……」
ヒラナにそう言われ、邪魔をするはずが結果的に背中を押すような形になってしまい不服なみこみこ。しかしもうこうなってしまっては仕方ない。

「はぁ。まったく……わざわざ教えてあげたんだから、最高のパフォーマンスをしないと承知しないんだからね」
そう言ってきゅるきゅる~んは帰って行った。

「思ったより優しい人達なのかも♪」
予想外の収穫に嬉しそうなヒラナだった。

時計を見ると、もうステージに向かわなくてはならない時間になっている。アキノの表情からは不安そうな色が消え、自信を持ってスペシャルパフォーマンスに臨む覚悟ができたように見える。

ヒラナ・レイと視線を合わせて頷く。

「ヒラナちゃん、レイちゃん、行こうっ!」


ステージ披露後

「――以上、『No Limit』で『GLORY GROW』でしたーー!」
たくさんの声援を浴び、観客席に向かって笑顔で手を振りながらステージ袖にはけるアキノ達。スペシャルパフォーマンスは大成功だった。

「アキノちゃん、ナイス!」

「パフォーマンスでも立派なセンターだったわよ」

「うんっ、ふたりともありがとう!」
アキノは心からの笑顔でふたりの言葉を受け止めることができた。

「あの、ちょっといいですか?」
そんなアキノ達に、3人組の少女が話しかけてくる。制服にオレンジ色のジャージを羽織った元気で明るそうな子、長くて青い髪をなびかせたクールな雰囲気な子、髪をふたつ結びにしてどこか不安そうな様子の子――どこか自分達と似ているような気もするが、恐らく、今まで会ったことはないはずだ。

「私達、外神田文芸高校の『電音部』です」
長い髪の子がそう言った。

「『でんおんぶ』……?」
ヒラナは全く何かわからないという様子で、少女達に聞き返す。簡単に言えば、電音部はDJと音楽を楽しむ高校生の部活らしい。『Fesonne!!』を見るため、今日はじめて3人でWIXOSS LANDに来たのだという。

「それで、私達に何か……?」
レイが用件を聞くと、中央の元気な子がアキノの手を握って興奮気味に話し始めた。

「私、日高零奈って言います。『No Limit』のアキノちゃん…だよね!?」

「は、はいぃ……」
アキノはその勢いに少したじろいだが、その日高零奈と名乗った女の子は、構わずに真剣な眼差しでアキノを見つめて言った。

「さっきのパフォーマンス、あなたの可愛らしい歌声と華やかなダンスに私とっても感動しちゃたっ!よかったら……今度、ゲストとして電音部に参加してくれませんか!?」

「え、ええっ!?ゲスト!?私が……!?」
思ってもいない言葉に、アキノは驚く。

「で、でも私全然そんな、プロとかじゃないし……!」

「そんなの関係ないよ!私達がステキだなと思った人と、一緒に音楽ができたらなって!」


「う、嬉しいけど……でも私ひとりだけってことですよね……?」
今日も自分ひとりのパフォーマンスだったわけではない。ヒラナとレイがいたからこそ、頑張ることができたのだ。

「そ…そうなんです…。楽曲の関係でアキノさんだけになってしまって…おふたりには申し訳ないのですが……。や…やっぱり難しいでしょうか……?」
ふたつ結びの子がヒラナとレイを見て、申し訳なさそうに様子を伺っている。

「あたしは全然気にしないよ!いいじゃん、アキノちゃん参加してきなよ~!」

「私も特に問題ないわ。実際、今日のアキノはそれほど魅力的だったと思うし」

「それにほら、前にアキノちゃん言ってたじゃん!もっとたくさんの人にWIXOSS――DIVAバトルを知ってもらいたいって!」

「確かに、『電音部』に参加させてもらったら、そのきっかけになるんじゃない?」
アキノや電音部の3人の心配はよそに、ヒラナとレイも乗り気な様子である。

「うぅ……ヒラナちゃん、レイちゃん~……!ありがとう……!」
アキノ達のやりとりを聞いて、電音部の少女達は顔を明るく輝かせる。

「それじゃあ……!」

「はい、私で良ければ、どうぞよろしくお願いします……!」
こうして『電音部』にゲスト参加することになったアキノは、少女達と連絡先を交換して、帰るのを見送ったのだった。

「う~ん、垣根を超えて活動できるなんて、まさに『No Limit』!我ながらいい名前を付けたっ♪今回はちょっとだけ、きゅるきゅる~ん☆のおかげもあったのかもしれないけど?」

「そうね、感謝しないと。そして私達はこれからも、限界なく挑戦していきましょ」

「うんっ、よーし!まだまだ頑張るぞー!よろしくね、ヒラナちゃん、レイちゃん!」

そう言って笑顔で顔を見合わせる『No Limit』の可能性は、これからもまだまだ広がっていく――。

タカラトミーモール