コラム

2025.06.04

【戦略記事】デッキテク:原根 健太選手の「アメジスト/エメラルド アグロ」 ~もしイルミニアとして参加していたならば~ 

日本初のディズニー・ロルカナ・TCG大型競技イベントとなった「ディズニーロルカナ グランプリ 2025 Spring 東京」(以下、ディズニーロルカナ グランプリ)は、準々決勝からYouTubeで生配信されており、熱き戦いを再び見ることができます。 

番組で解説を務めるのは、カードゲームというジャンルにおいて輝かしいキャリアを持つ原根 健太さん。 

その卓越したプレイスキルとディズニー・ロルカナ・TCGの理解度をもとに発せされた言葉は簡潔明瞭でわかりやすく、イルミニアの心情をくみ取った解説は素晴らしいものでした。 

それと同時に、思うのです。もし、解説者である原根さんがイルミニアとして大会に参加していたらどんなデッキを選択していたのか……と。 
ディズニー・ロルカナ・TCGはイルミニアたちが魔法のインクでキャラクターを描き、対決するカードゲームです。史実に基づくストーリーボーンではなく、「ドリームボーンの世界線での原根さん、いえ、原根選手の姿を見て見たかった」と。 

そこで、今回は解説の原根さんへ「もしもイルミニアとしてディズニーロルカナ グランプリへ参加していた場合のデッキの候補」をお伺いしました。 
選択肢のひとつとしてあげてくださったのは一番人気のアメジスト/ルビーではなく、まさかのアメジスト/エメラルド。その選択理由について解説をいただきました。 

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アメジスト/エメラルド アグロとは 

──「アメジスト/エメラルド アグロとはどんなデッキでしょうか」 

原根「従来のエメラルドといえばスティールやアメジスト、アンバーと組み合わせて《アースラ – 七つの海の騙し屋》と《背すじがゾクッ!》を組み合わせて手札に干渉していくデッキですが、このアメジスト/エメラルド アグロを選択肢のひとつにあげたのは攻撃的な意識の強さからです。攻撃的な要素としては《呪われた人魚 – アースラの被害者》や《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》などの低コスト高ロアのキャラクターが上げられます。手札破壊の性質をもつ一方でロア値が高く、ロアレースで優れた性能となります」 

《呪われた人魚 – アースラの被害者》

原根「《呪われた人魚 – アースラの被害者》と《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》は攻撃力が低いためチャレンジされれば一方的に退場してしまいますが、それらを《マダム・ミム – ヘビ》や《マダム・ミム – キツネ》で手札へと戻すことで、チャレンジされずに効率良くロアを稼いでいくのがコンセプトです」 

《マダム・ミム – ヘビ》

──「エメラルドと聞くと手札破壊のイメージが先行しがちですが」 

原根「ロアレースが順調にいけば勝てますが、思うようにいかないときもあります。中長期戦では《BE PREPARED》や《剣をふるえ!》が脅威となりますが、《アースラ – 騙し屋》で手札へ干渉して捨てさせます。実はこの《アースラ – 騙し屋》はアメジストと合わせないと出すタイミングが難しいカードで。明確に捨てさせたいカードがあり、それらを使われる一歩手前で《アースラ – 騙し屋》を場に出す必要があるためです」 

原根「このデッキでは《マダム・ミム》と組み合わせて使いまわせるので、《アースラ – 騙し屋》を積極的に出していける利便性があります。さらに副次効果として相手の手札を見ることで、キャラクターを出す順番を変更したり、ゲームプランを立てやすくなります」 

《アースラ – 騙し屋》

──「デッキ自体は原根さんが独自に構築されたのでしょうか」 

原根「デッキは自作ではありません。元々『Lorcana European Challenge Lille 2024』でTop8に入賞されていたデッキです。そこから《アースラ – 七つの海の騙し屋》を抜いているのもほかのデッキを参考にしてのことです」 

アグロデッキ 

「アグロデッキ」とは、最序盤から低コスト高ロアのキャラクターを場に出し、積極的に攻めていくデッキのことです。 

このデッキでは、《呪われた人魚 – アースラの被害者》や《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》で序盤からロアを獲得していき、《アースラ – 騙し屋》や《キット・クラウドキッカー – タフガイ》などの妨害手段を絡めつつ、一気に攻め切る展開を目指しています。 

デッキ選択の理由 

──「このデッキを選択肢のひとつとして挙げた理由を教えてください」 

原根「アメジスト/ルビーが強力であり多いことが予想され、同じデッキの対戦で優位性を見出すのが難しかったためです。《マーリン》や《マダム・ミム》をはじめとしたアメジストの土台を使いつつほかのインクタイプを使い、優位性を見出したかったのがあります」 

デッキ詳細

──「デッキの強みとしてはどんな点があげられますか」 

原根「デッキの強みは低コスト高ロアのキャラクターが多く早さがあること。相手の展開次第では一気に決着をつけられます。また、《アースラ – 騙し屋》がこのデッキの強みで。序盤こちらがロアレースで先行しつつも相手が追いついてきたとします。長引いたゲームでは《BE PREPARED》を考慮する必要がでてきますが、《アースラ – 騙し屋》のおかげでその不安を軽減でき、長期戦にも対抗できるようになっています」 

原根「《呪われた人魚 – アースラの被害者》や《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》が並ぶと《剣をふるえ!》が怖いですが、こちらも《アースラ – 騙し屋》で捨てさせられます。このデッキの弱点を《アースラ – 騙し屋》が補完してくれている。縁の下の力持ちであり、どんどんキャラクターを展開してロアレースで先行することを許してくれます。このカードがあるからこそ環境に蔓延る強力な歌カードへ対抗できています」 

原根「ほかのエメラルドデッキで《アースラ – 騙し屋》を使いましたが、場に出すタイミングが難しくて。例えばエメラルド/スティールは手札の所持率は高くないため、手札に《アースラ – 騙し屋》を抱えながら《BE PREPARED》をプレイされる直前まで残しておくのままどろっこしくて。それに対してアメジスト/エメラルドは《マーリン – ウサギ》などのおかげで手札の保有率回転率が良く、《アースラ – 騙し屋》を残しやすく感じました」 

──「《イズマ – ホラーみたいなしわしわ女》はどうでしょう」 

《イズマ – ホラーみたいなしわしわ女》

原根「アメジスト/エメラルド的に相手のキャラクターを対処できるカードが少なく、《ロビン・フッド – シャーウッドの英雄》などの極端にプレッシャーをかけてくるキャラクター1枚で負けてしまう。こちらは攻撃力が低く、何回チャレンジしても退場させられない。その点を解決できるカードです」 

原根「ですが、相手のキャラクターに対処できるだけなら評価は微妙でして。インクウェル(インクにおける)、自分のキャラクターを対象にとれる柔軟性の高さを評価しています。序盤で引いた場合はインクに埋めますが、中盤以降に選択肢が複数ある段階で引けば、対処か自分のクエストしたキャラクターをカードへと変換するかの二通りの使い道が生まれます。苦しい盤面で積みにならず、アメジストならば1、2枚は採用したい感じのカードですね」 

原根「デッキのコンセプトは気をつけていて、相手からチャレンジさせないのを大事にする必要があります。一見すると《呪われた人魚 – アースラの被害者》や《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》は退場しても手札を捨てさせられるため良いように思えますが、《マダム・ミム – ヘビ》や《マダム・ミム – キツネ》で使い回して、高いロア値を場に残し続けるのが重要です。相手視点ではゲームは進んでいるが、何故かうまくいかないなと感じるはずで、その意識を押しつけ続けるのを補助しています」 

──「新たに加わったロケーションカードである《女王の城 – 鏡の間》の評価は」 

《女王の城 – 鏡の間》 

原根「相手を選ぶカードでして、相手のデッキ次第では場に出せません。アメジスト同士だと手札を整えつつのキャラクターが並び、《マーリン – カニ》の果敢で落とされるため出せません。代わりに長期戦では1枚で逆転できる可能性があり、消耗戦では大活躍します。タイミングを選ぶカードです」 

原根「例えば相手が《BE PREPARED》を持っているときは上手く使いたい、自分のキャラクターが少ないときに使いたいはずです。キャラクター数が3枚ひらきがあって、それでいて追加してこないいびつな動きのときは《BE PREPARED》がありそうとなるわけです」 

原根「でもこのデッキはわかってもキャラクターをだすしか選択肢がありません。出さずにターンを終えるのはインクの無駄で、こちらの動きもいびつになる。キャラクター以外で勝利に近づける追加の選択肢として《女王の城 – 鏡の間》は少量入っています。自分が有利や相手の場にキャラクターが少ないなど状況次第でカードとして場に出すか、インクに埋めるか選択していきます。その意味では、仮に《女王の城 – 鏡の間》がインクレスだったらデッキに入っていないですね」 

デッキリストの変化と工夫 

──「アメジスト/エメラルドという組み合わせですと、《アースラ – 七つの海の騙し屋》と歌カードの組み合わせが浮かびますが、それは不採用なんですね」 

《アースラ – 七つの海の騙し屋》 

原根「ベースはLorcana European Challenge Lille 2024でTop8に入賞されていたデッキであり、それには《アースラ – 七つの海の騙し屋》が入っていました。《アースラ – 七つの海の騙し屋》と歌カードの組み合わせは強力でしたが、その返しにチャレンジされて退場してしまうのが気になって。しかも《アースラ – 七つの海の騙し屋》はクエストに向かうのではなく歌うため、序盤の動きに反してワンクッション挟む感じになります。1~2ターン目に高ロアのキャラクターを場に出すのとは狙いが変わってきます」 

──「《アースラ – 七つの海の騙し屋》を採用すると必然的に歌カードも増え、デッキのバランスが難しくなりますね」 

原根「歌カードの枚数は難しいと思います。歌カードを増やすば増やすほどキャラクターが出しにくく動きが不安定となり、結果ロアレースも鈍くなる。使っていて《アースラ – 七つの海の騙し屋》は引いてもインクに埋めるなど噛み合わなさも感じていたのもきっかけです。うまくつかえないカードにデッキを寄せることでデッキ全体のパワーが下がってしまい、さらに噛み合い重視で安定感が下がる。《アースラ – 七つの海の騙し屋》はこのデッキでは微妙だなと思っていたところで、入っていないデッキリストを見つけ、そちらを参考にしました」 

──「《キット・クラウドキッカー – タフガイ》と《MOTHER KNOWS BEST》のおかげで、押され気味な場も押し返しやすくなっていますね。それこそ《ロビン・フッド – シャーウッドの英雄》のような変身キャラクターに対して、《MOTHER KNOWS BEST》を歌った場合、破格の効果が期待できそうです」 

原根「《MOTHER KNOWS BEST》は詰み盤面を作られないように採用しています。《キット・クラウドキッカー – タフガイ》はただ強いカードで、エメラルドアグロをやる上で最高のカードです。1、2、3と綺麗にキャラクターを展開したうえでさらに場に干渉できる、自分が後手で相手の《ミニーマウス – シックなサーファー》を手札に戻すだけでも、十分な活躍といえます。後手での立ち回りが重要なため、そこをサポートしてくれるのは重要です」 

《キット・クラウドキッカー – タフガイ》

デッキを使ううえでのヒント 

──「このデッキを使いたい方へアドバイスをいただけますか」 

原根「なるべく損をしないようにする意識を持つことです。《呪われた人魚 – アースラの被害者》や《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》は一見するとチャレンジされて退場しても手札を捨てさせられるため良いように思えますが、それが目的ではありません。最終的なゴールはロアを20稼ぐこと。《呪われた人魚 – アースラの被害者》や《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》は効率良くロア稼ぐために入っており、それに沿って立ち回っていきます。そのことを忘れない、このカードが何のために入っているかを考える必要があります。デッキの指針が決まればカードを出す順番も決まりますから」 

原根「このアメジスト/エメラルドのデッキ名はアグロで、その意識は重要です。エメラルドの課題として、《背すじがゾクッ!》《プリンス・ジョン – 強欲王》のような手札破壊戦略では中々勝てないことがあります。手札を空にしても《プリンス・ジョン – 強欲王》でクエストにいくと場に残ったキャラクターでチャレンジされて中々勝てない。そこに対する解決アプローチの構築です」 

―ありがとうございました。 

おわりに

原根さんのが選択肢のひとつとしてあげてくれたのはアメジスト/エメラルドの攻撃的なデッキでした。最序盤から《呪われた人魚 – アースラの被害者》や《フリン・ライダー – イケてるお尋ね者》などの低コスト高ロアのキャラクターを展開し、それを《マダム・ミム – ヘビ》で出し直すことで継続的にロアを稼いでいくものでした。 

縁の下の力持ちと語ってくれた《アースラ – 騙し屋》はアメジスト/ルビーとアンバー/スティールが多かったディズニーロルカナ グランプリには最適なカードといえます。環境を深く理解していることがわかります。 

攻撃的なアグロ戦略を好む方は、ぜひ、お試しください。 

ライター:富澤 洋平 撮影者:福井 翔 

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