びっくりがたっぷり…かの忠義深いお仲間でさえも
ミスター・スミーは多面的なグリマーだ――策士であり、一等航海士でもある――けれど彼は何よりもまず、海賊だった。そして最近、アズライト海では海賊暮らしが絶好調だった。フック船長とグリマーの海賊団は、もう何週間もピーター・パンと剣を交えることもなく、海のお宝はまるごと盗り放題だった。実際、ジョリー・ロジャー号には、前日にシャレたアヒルのカップルが操る船から奪ったばかりの分捕り品が何箱も積み込まれていた。
ピーター・パンの形跡がありはしないかと近くの島を調べていたミスター・スミーは、注意深く地形を確かめていて、ふと凍りついた。あれはまさか?丸太にちょこんと座っている後ろ姿は、ピーター・パンの羽の生えた友だち、ティンカー・ベルのグリマーだった。なんたる幸運!
ミスター・スミーは、ロスト・ボーイズのグリマーたちが身に着けているような動物のしっぽが隠れているのでは、と周囲の茂みを見渡したが、特に見当たらない。視界の端で何かが動いたような気がして振り向いたが、やはり何もいない。
不安感を振り払い、ミスター・スミーはティンカー・ベルに集中した。赤い帽子を脱ぎ、身を低くし、何も知らない妖精の背後へそっと忍び寄り――そして跳びかかった。
「つかまえた!」激しく鳴る鈴の音よりも大きな声で叫びながら、ミスター・スミーは帽子でティンカー・ベルをすくい上げる。だが帽子をぎゅっと閉じる瞬間、ティンカー・ベルの顔にはかすかな笑みが浮かんでいたような気がした。
まあいいさ。ピーター・パンの信頼する仲間を捕まえたんだ。船に戻って閉じ込めたら、きっと船長が褒めてくれるに違いない。
「船長、船長!いいものを見つけて来やしたよ」
アヒル達の船から奪った箱の中身を忙しく漁っているフック船長のグリマーは、顔を上げもしなかった。「フ~ン?ああ、そこらに置いておけ」
「でも船長…」
「後にしろ、ミスター・スミー。それから、そのうるさい鈴の音を何とかしろ!」
スミーはテーブルのほうへ一歩下がり、彼の戦利品を閉じ込めたランタンを置いた。妖精がガラスの中で暴れまわると、近くに積まれていた、海賊団が最近奪った地図の束が床に落ちた。
「いいかげんにしろ、スミー!いったい何度言ったら…」フック船長は囚われのティンカー・ベルに気づいて言葉を止めると、両耳まで届くような不敵な笑みを浮かべた。
「よくやった、ミスター・スミー。そら、そこ散らかってるから片づけておけ」地図だらけの床を示したフック船長の目が何かを捉えた。
「おい、これは何だ?」フック船長は一枚の地図を拾い上げた。その片隅には迷路の絵が描かれている。突然、ティンカー・ベルがけたたましい鈴の音を鳴らしながら、地図を強く指差した。
「何だと?」フック船長は妖精に顔を近づけた。「秘密?俺のような者には決して見つけられないだと?試してみようじゃないか!」彼はフックでテーブルの上のあれこれを払いのけ、地図を広げると、じっくりとにらみつけた。
「試してみましょ!」ミスター・スミーが繰り返した。楽しそうに床に散らばった地図を拾い集める彼は、ティンカー・ベルが静かになったことに気づかなかった。彼は船長に、一つではなく、二つもの意外な贈り物を届けたのだ。海賊団はすぐにもイカリを上げ、再び略奪に出発できるだろう。
ミスター・スミーはフック船長の船室の前を行ったり来たりしていた。あれからもう何週間も経っている。船長は時おり命令を叫び、アズライト海の奥へ奥へと船を進めさせていたが、他の船――特に、イルミニアが操る船――に手を出すことを、手下たちに固く禁じていた。
海賊働きはなし。略奪もなし。大砲一発撃つことさえ禁じられていた、気が散るからという理由で。ミスター・スミーは船長を外へ誘い出そうとしたが、船長は地図の秘密を解き明かすまでは絶対に部屋から出ないと拒み続けていた。
絶え間ない波音にもかかわらず、気が立っている海賊たちは船長の奮闘の気配を聞き取っていた。物を投げつける音、イラ立った叫び、口にできないような罵声。だが、囚われの妖精の鈴の音は一度も響くことがなかった。
日ごとに不満を募らせていったグリマー海賊たちは、ついにはミスター・スミーに、フック船長に代わって船長の役割をこなすよう迫った。こんなのは海賊の暮らしじゃない!海の野郎どもの心に空いた海賊の形の穴を埋めるためには、何か――大きな何か――をやらなければならない。
そういうわけで、フック船長がとうとう居眠りに陥ったある夜、ミスター・スミーはそっと船長の部屋の扉を開け、部屋の中をそろりそろりと歩き、ゆっくり…ゆっくりと…ランタンの上に載せられた船長の帽子を持ち上げた。中ではティンカー・ベルが膝を抱え、くつの白いポンポンとにらめっこしていた。
すっかり退屈したような顔の妖精が上を向くと、ミスター・スミーと目が合った。ミスター・スミーは唇に指をあてて静かにするよう示すと、ランタンの扉を開けて外へ出るよう合図した。妖精は立ち上がり、のろのろとのびをした後、いたずらな笑顔で突然飛び上がり、ランタンの外へ出た。彼女はフック船長の机にふわりと降り立った後、開いたままの扉から飛び出して行った、フック船長の持ち物に降りかかった妖精の粉の跡だけを残して。
一等航海士は、大いびきをかくフック船長のグリマーをチラ見した。口ひげが呼吸に合わせて上がったり、下がったり。ミスター・スミーは船長の帽子をそっとランタンの上に戻してから、忍び足で出口に向かう。最後に一度だけ部屋を振り返り、ホッと息をついた。ティンカー・ベルが「脱走した」のだから、フック船長も船長の仕事に戻り、野郎どもも再び海賊暮らしに戻れるだろう、という自信があった。
ミスター・スミーの安堵のため息はのどで止まった。部屋中に降り積もっていた無害そうな光の粉がふわりと宙に舞い上がっていたのだ、触れていた物すべてを一緒に持ち上げて。懐中時計も、望遠鏡も、ランタンも、そして船長の大切な帽子までもが浮かび上がり――ミスター・スミーが必死に押さえようとするのも空しく――戸口から出て夜空へと浮かんでいった。
これは最悪の事態だ、とミスター・スミーが考えた瞬間、甲板長の声が響いた。「しっかりつかまれ!でっけえ波が来るぞ!二つだ!いや三つだ!囲まれてる!」
船は大きく揺れ、フック船長が身じろぎする。縞々のシャツの下で心臓を激しく脈打たせながら、ミスター・スミーは必死にあの地図を探した。アズライト海のど真ん中まで船を導いてきたあの地図、それがこの新たな災難から脱出するための鍵だった。
しかし…地図が拡げてあったはずのテーブルにはただ、妖精の粉が残した薄い輪郭線だけが残っていた。
フック船長があくびをした。その直後に外から、聞き慣れた誰かの声が雄鶏の鳴きマネをするのが響き渡った。
ミスター・スミーは目を大きく見開いた。なんてこった、なんてことをしてしまったんだろう?この数週間の出来事が頭の中を駆け巡る。簡単に捕まったティンカー・ベル。彼女は地図の謎を解いてみろと船長を挑発した。ミスター・スミーに逃がされた時、彼女は少しも驚いていなかった。あらゆる物を飛んで行かせてしまった妖精の粉。そして、この誤った冒険の最初の最初に見た、視界の端で動いた何か。
ミスター・スミーは戸口から飛び出した。船長の持ち物が夜明けの空へと高く、高く舞い上がっていくのが見える。懐中時計、望遠鏡、ランタン、船長の大切な帽子…それらのさらに上に、片手に例の地図を持ち、鳥が羽ばたくようにヒラヒラさせながら、ニヤニヤと勝ち誇って笑うピーター・パンのグリマーが浮かんでいた。
ミスター・スミーは大きな音を立てて唾を飲んだ。ミスター・スミーは多面的なグリマーだ――策士であり、一等航海士でもある――けれど彼は、決して犯罪の天才ではなかったのだった。