夢限少女杯 決勝

シロネコ選手 vs ぽっきー選手(ライター:てらたか)

「それ、着けなくていいの?」

尋ねられてシロネコ選手は、机に畳まれていたタスキを慌てて体に通した。夢限少女杯1日を通しての彼のトレードマークである、『本日の主役』と書かれたタスキを。
『本日の主役』。言うだけなら、あるいは文字にして書くだけなら簡単だ。
けれど、そうなろうとするのは簡単じゃない。

夢限少女杯は、誰もが主人公になれるところではない。

この大会に集まった16人は、みな今年のウィクロスの主人公を――一番を目指して4か月間を駆け抜け、そして本戦の舞台へと辿り着いた。それでも準決勝を終えて、すでに14人が主人公になり損ねた。
緊張からプレイミスを起こしてしまったものもいれば、完璧に戦ってなお見放されてしまったものもいる。どのようなプロセスを踏んでいたかは多種多様だろうが、たとえどんなプロセスを踏んでいったのだとしても、勝敗結果は覆らない。

主人公になれることをすでに証明した人間が、また主人公になれると確定しているわけではない。

1週間前のディーヴァグランプリ4th、勝ち上がった決勝戦にて。ぽっきー選手は、相手のデッキが14枚ぴったりとなったその瞬間に《ウリス・アフリクト》《ウルトラスーパーヒーローズ》を撃ち込み、緻密な計算で対戦相手の産んだわずかな隙を完璧に狙い撃ちし切った。
グランプリで見事全勝優勝を果たしその日の主人公になった彼は、そこから夢限少女杯でも負けずに決勝までやってきた。その数、実に13連勝。
けれど、グランプリでは福音となった”14″が、今度は壁として立ちはだかる。今からの試合で14連勝目を果たさなければ、彼はこの日の主人公にはなれない。

主人公になるために、乗り越えなければならない壁がいくつもある。

動画配信卓に映し出された2回戦。圧倒的な勢いで手札を刈り取られ、見ている誰もがもう勝敗は決したと思った場面から。《羅菌 アメーバ》の絡んだゲームメイクを見事に作り上げ、シロネコ選手はドラマチックに勝利をたぐり寄せてみせた。
口をぽかんと開けて見入ってしまうような圧倒的なプレイングスキルを見せつけ、決勝戦まで進み続けた彼。それでもまだ、今日の主人公にはなり切れていない。最後の試練が、今ここに残っている。

まだ2人いる、主人公になりうる人間。そのどちらもが、この場に残るにふさわしい素質をすでに見せていることは疑いようがない。しかし、試合が終わるころには必ず、1人の”主人公”と1人の”そうなれなかった人”になる。
2人も、当然そんなことは織り込み済みだ。だとしても、困難な道だろうと絶対じゃなかろうと。

誰だって、きっと主人公になってみたい。
だからこそ彼らは向き合って、カードを並べている。

シロネコ選手(ノヴァ-マドカ/マキナ)vsぽっきー選手(リメンバ-マドカ/ウリス)

「よしっ……お願いします!」

ほんのちょっとだけ強い語気で挨拶をしたシロネコ選手は、まず《融合の儀 タウィル//メモリア》をエナチャージしノヴァをグロウ。《融合の儀 ウムル//メモリア》《羅菌 アメーバ》を立ててターンを終える。
対するぽっきー選手もエナチャージ後、《マドカ//フロート》で手札を整えてから《羅星 レプス》《聖凶天 マスティマ》を立てる。《中装 デウス//メモリア》に対してライフを保持しやすいパワー5000ラインを並べる程度の、あっさり目の展開からアタックフェイズ。シロネコ選手のシグニゾーンにいる《融合の儀 ウムル//メモリア》が踏まれ、ライフからは《惨之遊姫 ジンロウ》がめくれる。

追加の点数要求はされなかったとはいえ、シロネコ選手のエナにはグロウコストとして支払えない黒が2枚。彼は「どうしよ」と呟きながら少し考え、《融合の儀 タウィル//メモリア》を追加の白エナとしてチャージしグロウコストにした。
前のターンでは手札3枚であからさまに《羅菌 アメーバ》を匂わせながらターンを終了していたが、今回のターンまでそれを続けることはなかった。彼は小刻みに震える指でルリグデッキを取ると、《マドカ//フロート》で手札を補充し、《マキナウィングスラッシュ》で相手の盤面を1つ飛ばす。
そして、回収した《聖将 トキユキ》の横に、2枚目の《羅菌 アメーバ》を並べた。

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「ふーん」

黒の火力に対してことさら弱く、本来は青の手札破壊に対して手札に持っておきたい2枚の《羅菌 アメーバ》盤面。
ちょっとばかり心細そうなシロネコ選手のシグニゾーンに、ぽっきー選手が声を漏らす。

こうなれば、次ターンの間にうまく攻め込むリソースが欲しい。しかし、ぽっきー選手がわずかに期待を込めながらめくったライフクロスには、シグニ2体のアタックを止められるバーストも除去系統のバーストもない。
少々落胆こそすれ、このくらいの展開はゲーム上よくあることだ。即座に切り替えて、ぽっきー選手は自身の2ターン目を進め始めた。

センターをグロウさせたぽっきー選手は、まず《ウリス・スケアー》《聖将 トキユキ》をバニッシュし、シロネコ選手のデッキを4枚落下させる。その後自身の手札の質を見定め、《ウルトラスーパーヒーローズ》で手札を2枚加えながら、さらにシロネコ選手のデッキを10枚削っていく。加えて《RANDOM BAD》で相手の手札を1枚破壊しながら自身の手札の質を上げてゆく。
一気に削れて、心もとない枚数に落ち込むシロネコ選手のデッキと、山盛りのトラッシュ。そこに《羅菌 アメーバ》が落ちていないと確認したぽっきー選手は、思案したのち《中装 デウス//メモリア》《蒼魔 マノミン》を場へ送り込んだ。
今増えたばかりの手札が、贅沢に使われる。《中装 デウス//メモリア》の効果で片方の《羅菌 アメーバ》をバニッシュすると、彼はシロネコ選手の”3枚”の手札に、《蒼魔 マノミン》の手札破壊をぶつけに行く。

通常、手札が3枚の状況で相手が任意選択できる手札破壊をするのは、分の悪い賭けだ。
けれど、シロネコ選手の公開領域には《羅菌 アメーバ》がすでに2枚出てきている。ならば、手札に《羅菌 アメーバ》が保持されている確率が低いうちに、できるだけ削り取ってしまいたい。悩むべき唯一の懸念点は、落とした14枚のトラッシュの中に《羅菌 アメーバ》の姿がなかったこと。
そんなぽっきー選手の選択は、”懸念点”に――シロネコ選手の手札から現れた3枚目の《羅菌 アメーバ》に――絡めとられて阻まれる。裏目で渋くなってしまった効果解決に、ぽっきー選手は残念そうに目を細めた。

うまく《羅菌 アメーバ》で手札破壊に対応できたシロネコ選手が、さらに手札を増やしにかかる。
《マキナスマッシュ》で1点を止めながら《融合の儀 ウムル//メモリア》を回収した彼は、アタックされたライフからさらに値千金の《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》がバースト。《羅星姫 ミュウ//メモリア》の回収で続くターンの動きの成立保証を作りながら、ターンを受け取った。

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《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》軸のデッキは、回転する限り、常にビッグムーブだ。小型のシグニが場に並び、大型のシグニに変わり、さらにシグニが蘇生され、そこで点数要求を重視するか盤面の硬化を重視するかが判断される。
《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》の下に敷くシグニで2択、蘇生するシグニで幅広い択、そもそもそこに繋げるためのトラッシュ回収やドローでなお幅広い択。なんでも蘇生できる対応力の広さは、引き換えにプレイングの難度を否応なく引き上げる。
しかし、その繰り返される膨大な選択の連続を受け入れ、「環境の解答」であると断言しながら道先案内人として選んだのがシロネコ選手だ。
もっとも自由で最も難しい先手の3ターン目を、脳漿を絞って、絞って、絞りに絞って作り上げてゆく。

自ターンになってから、実に3分近く。とうとうシロネコ選手は《幻竜姫 ドラゴンメイド》をチャージして、センタールリグを相棒たる《運鳴 ノヴァ》へと成長させる。
エナチャージの選択に引き続き、《運鳴 ノヴァ》出現時効果によるデッキ上3枚の置き換え選択。紙のように薄くなったデッキの上から3枚を眺め、「そうなるとちょっと話変わってくるな」とぼやきながら1枚を上に、2枚を下に。
《羅星姫 ミュウ//メモリア》《羅菌 アメーバ》を回収し、続けざまに《融合の儀 ウムル//メモリア》からデッキトップに置いたばかりの《融合の儀 タウィル//メモリア》を呼び出すと、核である《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》を、《融合の儀 ウムル//メモリア》を下敷きにして呼び出した。
3面目にはパワーラインを意識した《聖将 トキユキ》が蘇生され、これでアタックフェイズへ入る。

シロネコ選手のデッキが、紙のように薄い。
早ければここで、遅かろうと次のターンあたりで、リフレッシュに入ってしまうことは間違いがない。少しでも甘えれば、ぽっきー選手のルリグデッキに眠る《ウリス・アフリクト》がすべてを台無しにしてしまうだろう。そしてひとたびリフレッシュに入れば、《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》《運鳴 ノヴァ》も大幅に効果が弱体化してしまう。
だからこそ、彼は渾身の盤面を作り上げていた。エナを見れば《融合の儀 ウムル//メモリア》《融合の儀 タウィル//メモリア》がそろい、場には《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》《羅星姫 ミュウ//メモリア》、そしてちらりと覗いた手札に《サーバント #》《羅菌 アメーバ》という、今この瞬間にリフレッシュを喰らっても、ゲームメイクに必要なものすべてが残る盤面を。

そこまでリフレッシュのバリューを落とされてしまうと、トラッシュが少ないぽっきー選手の《ウリス・アフリクト》はあまりにも費用対効果が悪い。軽いライフバースト期待も込みでぽっきー選手は攻撃を素通しするも、攻撃が止まるようなライフバーストは生まれず、2点が通り抜ける。

そしてルリグアタック時、《運鳴 ノヴァ》の効果で《羅星 アンチラ》がデッキトップに。
リフレッシュされるなら《羅星 アンチラ》も一緒に巻き込まれて邪魔をせず、リフレッシュされないなら次ターンの動きが大きく楽になる。難しい3ターン目を、シロネコ選手は万全の状態で終えた。

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ぽっきー選手のセンタールリグも、ようやく《共宴の巫女 リメンバ・ディナー》へと成長を遂げる。
2人のプレイヤーに、2人のルリグの完全体。これで全員、主役が場に揃う。
ぽっきー選手は、まるで出現時効果であるかのように《共宴の巫女 リメンバ・ディナー》の起動効果を使用し、そして見えた3枚と手札を見比べ始めた。

数多くの選択肢から熟思せねばならないのは、環境トップメタといえるリメンバも同じことだ。毎ターン起動効果で見える3枚から常によりよい1枚を選び続け、ゲームを作り上げていく必要がある。そして、《ウルトラスーパーヒーローズ》まで含めて大量のカードをデッキの下に送り込んだ分だけ、試合中に覚えなければならないことも増える。
積み込まれた順番と、自分だけが知っているライフバーストの残り枚数。ゲームを組み立てていくために記憶する必要のある情報量は、ディーヴァセレクションにおける全デッキの中でもトップクラスに多いといえるだろう。選択の繰り返しの中で記憶まで積み重ねていかねばならないのだ。

けれど、ぽっきー選手はこの《ウルトラスーパーヒーローズ》軸の白-青黒リメンバを誰よりも早く使い始め、予選期間を、そしてディーヴァグランプリ4thを通してずっと使用し続けてきた。練習も含めて数えれば、《共宴の巫女 リメンバ・ディナー》のターン1起動効果を使用した回数も、おそらく1000回を下ることはないであろう。
経験量、そして勝ちを積み重ねてきたという自負。全てが彼の背中を押して、頂点への歩みを支える。見えた3枚が網膜に焼き付くほどに、何度も確認をしたぽっきー選手は、ようやく1枚を手札に加えた。

増えた手札から《羅原姫 ZrO2》を場に送り出した彼は、《羅菌 アメーバ》を確実に1枚抱えているシロネコ選手に、手札破壊を仕掛けにゆく。3枚の手札から、裏向きで1枚。
捨てさせた手札を表向きにすると……《サーバント #》
点数要求が、一気に楽になる。このチャンスを逃さないとばかりに彼は、続けて《コードメイズ ユキ//メモリア》を出し、《聖将 トキユキ》の効果を消してパワーを3000まで下げる。
これで、《羅原姫 ZrO2》のトリガー能力が-3000のままでも、点数要求になる。未だリミットが6のぽっきー選手は最後の盤面に《羅星 レプス》を立て、これでアタックフェイズに入った。

まず2体のシグニを空殴りで寝かせ、《羅原姫 ZrO2》《聖将 トキユキ》を溶かして1点。ここで《聖魔 プルソン》がめくれる。
1点分の防御バーストが無駄になった……ように思えたが、ルリグアタックでシロネコ選手のライフからさらに《凶魔 テューポーン》がバーストしたことで、話は大きく変わった。
《聖魔 プルソン》がシロネコ選手の手札を増やしたおかげで、《凶魔 テューポーン》のバーストによる手札破棄コストが、実質消え去ったのである。手札3枚のすべてが重要であるシロネコ選手は、一考してから《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》を捨てて《羅原姫 ZrO2》をバニッシュした。

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4ターン目を迎えたシロネコ選手に、大きなチャンスが訪れる。
残るぽっきー選手の場には、レベル1のシグニ2体のみ。点数要求をするならば、余りにも魅力的な状況といえた。

そうなれば、点数要求のできないシグニは邪魔だ。シロネコ選手は《共宴の巫女 リメンバ・ディナー》の効果で凍結された《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》をエナチャージすることを即断し、最もよい要求盤面を組み立ててゆく。
まずは《スーパー・ヘルエスタセイバー》で、《サーバント #》《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》《惨之遊姫 ジンロウ》が手札に加わる。
続いて《運鳴 ノヴァ》のゲーム1能力で、1枚しかなかったデッキの上に《融合の儀 タウィル//メモリア》が設置される。
あとは《融合の儀 ウムル//メモリア》から《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》を再降臨させ、一応パワーラインを再び《聖将 トキユキ》で上げ、場に残った《羅星姫 ミュウ//メモリア》の下に1枚の下敷きを置けば……。

手札に《サーバント #》《羅菌 アメーバ》、場に《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》とダメージソース、そしてエナに《融合の儀 ウムル//メモリア》《融合の儀 タウィル//メモリア》、しかも枚数は青を含めて5枚をキープ。
リフレッシュ対策の状態を完璧に保全したままに、3面要求の完成となる。

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怒涛の点数要求に、ぽっきー選手は少し困りながら、とうとうアシストをグロウさせた。
彼は先に《マドカ//ダブ》《聖将 トキユキ》をダウンする。その手札破壊で強そうなカードを引き抜くことはできず、続けて《ウリス・アフリクト》をグロウさせてもトラッシュの枚数は14枚。そう、《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》を除去するには1枚だけ足りない、”14″枚だ。
もう1エナかけてお互いのデッキを落とせば、除去範囲には届く。しかし、その効果は自身のリフレッシュも近付く諸刃の剣。結局、《羅星姫 ミュウ//メモリア》をバニッシュして、デッキ落としはせずに攻撃を通すことにしたようだ。

そしてぽっきー選手に、不運が訪れる。
2点要求を2度も通して、1点も止まらなかったのに。シグニからの点数要求を1点に抑え込んだこんなところになって《幻水姫 シィラ》がめくれて、ライフバーストが不発してしまったのだ。
おまけに、《マドカ//ダブ》まで含めてここまで大量に引いてきた中に、《サーバント #》はいなかった。ルリグアタックからのバーストで《羅星 レプス》が出て《聖将 トキユキ》を除去できたといえど、あっという間に余裕は消え失せる。

あまりにも辛い、辛い4ターン目が、ぽっきー選手の行く手を阻む。
ライフは1枚、アシストは両方グロウ済み。シロネコ選手も《運鳴 ノヴァ》のゲーム1能力でリフレッシュしたが、ライフは2枚あればマドカのアシストもまだ1枚残っている。どれだけ攻勢に出ようとも、このターンで勝ち切るのは不可能だ。

貫かれない盤面を作らなければいけない。次のターンを耐え抜けるだけの。
相手の防御手段を抜けてトドメを刺す手段を構築しなければいけない。勝ち切るための。
頂点に到達するためにやらなければいけないことは、あまりにも多い。しかし、闘志は失われていない。
黙考しながらシロネコ選手のエナゾーンを睨むように見つめるその瞳が、それを物語っていた。

結果。自分の持てるすべての情報を見直して彼が行ったのは、硬い、硬い盤面作りだ。《スーパー・ヘルエスタセイバー》を撃った彼のトラッシュから、《サーバント #》《幻水姫 シィラ》《凶魔 テューポーン》が回収されてゆく。
《聖天姫 エクシア》《幻水姫 シィラ》《凶魔 テューポーン》。高パワーとアタック遮断を両立した盤面が展開され、アタックフェイズへと入る。点数要求はすでに《羅星 レプス》《ウリス・アフリクト》が作ってくれている。アタックフェイズ、攻撃が通り切るのを、祈るのみ。
《幻水姫 シィラ》が、まずはライフバーストのケアで《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》を空殴りする。
《聖天姫 エクシア》が、1点を、通す。

シロネコ選手のライフから、《聖天姫 エクシア》

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パワー15000を誇る《凶魔 テューポーン》が、ぽっきー選手の手札へ帰ってゆく。《共宴の巫女 リメンバ・ディナー》のルリグアタックが《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》を凍結する。そして――。


2回戦。勝利を決定付ける《惨之遊姫 ジンロウ》を出すシロネコ選手は、豪快に手札を投げ捨てて、最後の1点を入れていた。
勝ちに向けて、はやる気持ちを抑えきれない。ずっとそんな調子だった彼の最後の動きは、おそらく決まり切っていたはずなのに、すべてがきめ細やかだった。

《ウルトラスーパーヒーローズ》が、ぽっきー選手のデッキを4枚以下の領域まで削り取る。
《羅星姫 ミュウ//メモリア》が、《融合の儀 タウィル//メモリア》を回収して、そのままリムーブされる。
揃った《融合の儀 ウムル//メモリア》《融合の儀 タウィル//メモリア》から、この日最後の《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》が、そして《幻竜姫 ドラゴンメイド》が並び立つ。
丁寧に、まるで一歩一歩踏みしめるように。最後の1面にまでしっかりとシグニを並べ切った彼が、アタックフェイズに入り。

《幻竜姫 ドラゴンメイド》が、ぽっきー選手のデッキを落とし切りながら、一閃。
「環境の解答」と豪語されていたデッキは、シロネコ選手の期待通りに、彼を頂点へと押し上げた。

優勝者:シロネコ選手




試合が終わった直後。2回戦や、そして準決勝と同じように咆哮するかと思われたシロネコ選手は、ただ一度頭を下げ、それから呼吸を整えていた。悔しそうに、それでもやり切った顔でぽっきー選手がデッキを片付け始めても、まだちょっと試合の余韻が残っているみたいに手札を動かしながら。

常に陽気な高いテンションで、おちゃらけている風に見える、シロネコ選手。
しかし、何度もネタにしていたはずのタスキを掛け忘れていた試合前や、語気の強くなった試合開始時に。そして、カードを持つ手が無意識に痙攣した試合中に。隠しきれない緊張と不安が、何度も顔を覗かせていた。
負けを恐れていなかったのではない。それを感じさせないように、感情のすべてを試合に向けて没頭していたのである。

そんな不安のすべてから解放された彼が、ゆっくりと表彰台へ向かう。歩き出す頃には、清々しい表情の、いつもの彼だ。


おめでとう、シロネコ選手!
「本日の主役」は、夢限少女杯の”主人公”は、貴方のものだ!

タカラトミーモール