夢限少女杯2024 カバレージ準決勝

球琪湯米選手 VS しおざわ選手

文:てらたか 写真:からばこ

夢限少女杯の大会形式は、初回から現在にかけて少しずつ変化している。
第1回となる2022年度は、そもそも参加者合計16名・最初から一本勝負のトーナメント戦だった。それが前回はスイスラウンド5回戦からの上位8名での決勝トーナメントという形式になり、今回は参加人数が増えたことも影響してかスイスラウンド5回戦からの上位16名による決勝トーナメントだ。

最後まで勝ち上がれば都合9戦。しかも、対戦相手全員がどこかしらの大会で好成績を残したプレイヤーで気が抜けない。回戦数はグランプリより少ないといえど、ここで勝利を重ねる難しさはそれを超えるだろう。
そんな最高峰の大会にて、スイスラウンドからここまで一度も土つかずで勝ち進んできた選手が1人だけいた。深センで開催されたグランプリを勝ち上がってこの大会に招待された球琪湯米(カオ ケイ トミー)選手である。

無傷で予選ラウンドを突破したという点だけでも見事なものだが、すばららしいのはその戦果だ。
動画配信卓で初代夢限少女であるシロネコ選手を下し、予選の最終戦では2代目の夢限少女であるhyakko選手も撃破。全勝したという一言で片付けるには、あまりにも強い面々に対して勝利し続けている。
聞いた所によると、球琪湯米選手の「球琪」は彼の拠点から、「湯米」は彼のイングリッシュネームの「トミー」から名付けられているとのこと。検索してみれば、確かに「球琪桌遊」というアカウントがさまざまなSNSで発見できる。

自身のルーツをハンドルネームに背負い、見事な勝利を収めてここまでやって来た球琪湯米選手。後2回、たった2回の戦いに勝ちさえすれば、その名は当代最強のセレクターの象徴になる。

ただし、その「たった2回」は残った4名全員が持つ権利であり、だからこそ全員にとって短くも遠い2回だ。

対面に座るしおざわ選手は、秋に開催されたディーヴァグランプリにおいて、「ひとえ」「あきら」が支配的だったメタゲームに「緑子」で切り込んで優勝してみせたプレイヤーである。
今大会において、「緑子」は特に大躍進を遂げたルリグだ。特に使用者が多くなるような前評判はあまり聞こえなかったが、それを覆して使用率は3位。配信卓に最初に映し出された映像は「緑子」対「緑子」で、ベスト4に残ったルリグのうち半分も「緑子」。
それだけの地力を持つルリグを、そのルリグと共にグランプリを優勝したプレイヤーが今ここで使っている。言わずもがな、この場所まで来た時点で彼も優勝候補の1人だ。

そんなしおざわ選手の手首には、最近オープンしたウィクロス専門カードショップのロゴ入りのリストバンドが付けられていた。

席に着く1人1人に、背負うものと勝負への熱意がある。それはきっと、言葉が直接通じなくとも、試合の中で伝播してゆく。
通訳を交え、先手後手を決めるダイスロールが行なわれる。先手を取った球琪湯米選手が3枚、後手のしおざわ選手が「えーん」と小さく泣き真似をしながら5枚の引き直し(マリガン)。

さあ、決勝戦の席に座れるのは、2人のどちらか片方だけだ。

球琪湯米選手(アザエラ-チーム夢限少女) vs しおざわ選手(緑子)

1ターン目から、球琪湯米選手は動く。
自身の先手1ターン目を赤エナのチャージと《混天 A・アロー》2枚の設置だけで終えた彼は――しおざわ選手の《シーク・エンハンス》使用時、応答の際に自身のプレイマットを跳ね上げてライフの1枚目を公開してしまう、というちょっとした事件とそれに伴うジャッジ対応ののち――《幻闘獣 ベイア》《幻獣 ギリシャガメ》を立てたしおざわ選手の後手1ターン目で、いきなり《俯瞰者からの啓示》を発動した。
見えた5枚の中からチーム3名の色に対応する《コードハート リメンバ//メモリア》《幻竜 プテラノドン》《コードハート Dローン》を全てエナゾーンに置くと、立て続けに《自己顕火》まで発動、解決。

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その動きに迷いがなかったことから、おそらく《俯瞰者からの啓示》によるエナ確保の保険込みで《自己顕火》で序盤のドローまで賄うプレイはこのデッキにおけるセオリーのひとつなのだろう。ライフをすべて保持した状態で、球琪湯米選手は自身の2ターン目へと移った。

本当の事件が起こったのは、この2ターン目だ。

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《コードアート ピルルク//メモリア》でデッキを掘ってから再度《混天 A・アロー》を立て、前のターンから生き残った《混天 A・アロー》と合わせて盤面に2枚。万全のリソース搾取体制で球琪湯米選手がアタックすると、シグニのアタックによってめくれたしおざわ選手のライフからバーストはなし。

とはいえ、前ターン《幻闘獣 ミャオ》を出していない以上、さすがに《シーク・エンハンス》の回収は《サーバント #》なはず。そう思った次の瞬間、《混天 A・アロー》によって2枚分のリソースが奪い取られたしおざわ選手は、ルリグアタックを悲しそうにライフで受けていた。
本来リソースと引き換えにガードやコンボを安定させるはずの《シーク・エンハンス》は、こんな大事な場面で、しおざわ選手にダメージソースもガードも寄越してはくれなかったのだ。

最後にめくれたしおざわ選手のライフから、今は見えてほしくない《サーバント #》。できれば《サーバント #》と一度出会った後に、そして相手のルリグアタック直前にめくれてくれれば。このタイミングのライフバーストでは、彼は《混天 A・アロー》で奪い取られたリソースを半分取り戻すだけしかできない。

将来の《讃型 緑姫》のワナによる回収や、赤エナとして使う可能性を考慮して《サーバント #》をエナに残すべきか、それとも次にライフから《サーバント #》と巡り合った時に後悔しない出会いにすべく、《サーバント #》をトラッシュに送るべきか。
ことエナ回収も赤エナの使用も行なえる「緑子」では状況次第で意見が分かれる部分だが、少なくとも球琪湯米選手のデッキはリソースを取り続ける【チーム型アザエラ】であり、そして公開領域にはルリグと違うエナ色を焼く《幻竜 プテラノドン》が見えている。
しおざわ選手は《サーバント #》をコストにグロウし、自身の2ターン目を進め始めた。

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そして、《サーバント #》でリソースを回収した以上、しおざわ選手の点数要求はこんな所では緩まない。
彼は《幻獣 ハムスター》《幻獣 プレーリードッグ》でパワー上昇をかけると、そのまま《幻獣 プレーリードッグ》をリムーブし2枚目の《幻獣 ハムスター》《緩絃朗笛》《幻闘獣 ベイア》がめくれたため結果的に《幻獣 プレーリードッグ》がなくても3点要求は成立していたことになるが、これがめくれる保証はなかったのだから仕方のないリソース損。
割り切って、しっかり3点要求を作り出した。

そんなしおざわ選手の盤面作りに対し、球琪湯米選手はここでもあまり迷わず《フレンドシップ・フレイム》を発射する。残るシグニからの2点要求は全て受け取り、ライフを5枚として「アザエラ」をグロウさせ切る択を取った。
色とりどりのカードが採用されたチーム編成としては、「緑子」のエナ破壊による詰めは常に恐怖の対象。攻防の際にネックとなる多色要求の防御アーツは、おそらく撃てるうちに使い切ってしまいたかったのだろう。

もちろん、《幻獣神 ヤマアラシ》などのアタックによって発生する追加打点をすべて素通ししてしまうという欠点こそある。ただ、

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そういう追加打点系のカードは、ことごとくが重いコストを抱えているか、もしくはそもそも《断炎轢断》のように防御アーツの有無は特に関係ないカードであることが多い。
そんなリソースなんて欠片も残さない。球琪湯米選手の使う《彼方へ輝く アザエラ》は、ひいては【チームアザエラ】は、そういうリソース破壊に長けたルリグである。

「5 hands?」

そして、3ターン目に入ってさっそく相手の手札枚数を確認した球琪湯米選手は、間違いなく徹底的にリソースを破壊する気満々だった。

球琪湯米選手はセンターグロウ後、まずアシストの「ガブリエラ」を《閃々!!ガブリエラ》へグロウさせ《幻闘獣 ベイア》をトラッシュに叩き落とすと、その「ガブリエラ」を《煌々!!ガブリエラ》までグロウさせて手札を補充する。
これでエナへの負担は十分と言わんばかりに次は《RANDOM BAD》を撃ったら、最後に場に《夢限紅天姫 ゼウシアス》《コードハート Dローン》を送り込み、アタックフェイズへと入った。

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スペルを使用したため《コードハート Dローン》はアタックフェイズで2枚の手札を奪い取ることができ、また場にいる《夢限紅天姫 ゼウシアス》も、少なくとも手札破壊効果を宣言するのは火を見るより明らかだ。
「緑子」のアーツはアタックの無効やダメージの無効が関わるものが多く、こういった強力なアタック時効果を止めるのは苦手。ターン開始時、球琪湯米選手の質問に対し肯定の意味でサムズアップ👍をしたしおざわ選手の手札は、そのターンのうちにサムズアップ👍で立てた指と同じ枚数まで確実に落ち込んでしまう。

更に痛かったのは、《夢限紅天姫 ゼウシアス》の手札破壊がランダム選択だったということだろう。

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ついさっきのターンで奇跡的に巡り合えた《サーバント #》が、無情にも役割を果たす前に手札から消滅する。
明らかに、追い風が球琪湯米選手に吹いている。《夢限紅天姫 ゼウシアス》のバニッシュ効果も込みで、しおざわ選手のライフはもう1枚。球琪湯米選手の追い風の前のそれは、まさに灯火と言って差し支えない。

しかし、燃えている熱意の灯火は、負けを認めるまで消えないものだ。

後攻3ターン目。しおざわ選手はグロウしたのち、まず流れるように《竜花相搏》を撃つ。
点数要求をひとつでも進めるための、もしくはエナを残すためのライフクラッシュか、それとも1ターンでも長く生き抜くための防御か。苦しいリソース状況の中でひとしきり考えたのち、彼はライフを伏せたままにする。

その後、手札から《幻獣神 オサコ》《幻闘獣 ミャオ》を場に出すと、彼の代名詞的存在とも言える《鏡花炎月》をそこで抜刀した。

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「緑子」の採用アーツといえば緑オンリーか、積まれるにしても《集中紅火》1枚だけ。2024年度の秋、そのセオリーを打ち破る《鏡花炎月》入りの【地獣緑子】で、彼はディーヴァグランプリを優勝してみせた。
その破壊力は今なお健在。彼は0枚の手札を4枚にすることと、引いた手札を代償にゲームターンを縮めることを選択する。
球琪湯米選手のライフは多いといえど、アシストルリグとアーツはもう撃ち切り、残っているルリグデッキはピース1枚だけだ。2ターンに渡ってダメージを刻んでいけば、未だ勝機は消えていない。

《煌々!!ガブリエラ》の効果によって大きなリソース課税を課せられている彼にできるのは、少なくともリーサルが残るラインまでライフを割ること。ルリグアタックはガードされるものの、《讃型 緑姫》の効果による1点と合わせて球琪湯米選手のライフを3枚まで落とし込む。

欲を言うならばあと1枚、シグニだけで明確なリーサルが見えてくる2枚までライフを落としたかっただろう。
しかし、しおざわ選手のエナ枚数は現時点、シグニで1回アタックしただけで残り2枚。点数要求のためにこれ以上減らすと《彼方へ輝く アザエラ》からの《インビンシブル・ストーリー》という見えている致死圏内に自分から突っ込んでしまいかねない。このあたりのラインが、今の彼ができる限界の要求値だった。

その“代名詞”に呼応するように、球琪湯米選手は自身のターンに入るとすぐルリグデッキに眠る”必殺技”を――チーム編成ルリグの特権であるドリームチームピースを解き放った。

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球琪湯米選手の《CONNECTスピニング》が、何もかもを蹴散らしてゆく。
バニッシュ効果によりしおざわ選手のシグニを。エナ破壊効果によりぴったり3枚になったしおざわ選手のエナを。そしてライフクラッシュ効果により耐えるために増やされたはずのしおざわ選手のライフを。
絞りに絞れるだけリソースを絞り取った末の《CONNECTスピニング》は、一瞬で盤面をずたぼろに破壊しきった。

球琪湯米選手の動きは、それで終わりではない。

決着を付けるべく、彼は続けて《彼方へ輝く アザエラ》のゲーム1効果の使用を宣言する。彼が《インビンシブル・ストーリー》で追加の赤エナを支払えば、もうしおざわ選手に残ったのは1枚のライフと、アーツを1枚撃てば消える3枚のエナ。

球琪湯米選手がアタックフェイズを宣言する。
《鏡花炎月》も撃ち、リソースもすっからかん。たとえ耐えようが、これでもう普通の【地獣緑子】にひっくり返す手立ては何もなかった。


そう、普通だったならば。

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しおざわ選手はすべてのエナを使ってルリグデッキから《守破離》を取り出すと、まず自身の公開領域にあるライフバーストを数え始める。
熱意は消えていない。最終的に《守破離》の効果対象をシグニ2体に選択し、そして祈る彼には、まだ戦いへの熱が残っていた。

ラストチャンス。そう言わんばかりに、ライフから出て来た《幻獣 ギリシャガメ》が最後の1ターンをしおざわ選手にもたらす。
そこでようやく、彼の最後のルリグデッキが姿を見せた。

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《鏡花炎月》《集中紅火》。彼は今日ここまでを、この苛烈な破壊力を持つ構成によって勝ち上がってきていた。
エナはない。シグニで3点通しても勝てるかは不明。それでも引いた5枚と心中するしかない。
そして。

「負けだ……」

寂しそうに、ぽつり。
しおざわ選手は、毒にも薬にもならぬ3枚のシグニを並べ、《讃型 緑姫》による1点要求だけでアタックフェイズへと入る。

その攻撃で球琪湯米選手のライフから《未来への道標》がめくれたのを認めると、彼は一度がっくりとうなだれ、とうとう完全に敗北を受け入れた。

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球琪湯米選手の手札から、盤面をこじ開ける《夢限紅天姫 ゼウシアス》
チーム夢限少女が、そして『夢限』の名を冠するパートナーシグニが、彼を決勝の舞台へと導いた。

勝者:球琪湯米選手

「ぜひ、優勝で!」

試合を勝ち切った安堵も、決勝への緊張感もあってかそわそわする球琪湯米選手へ、しおざわ選手が声を掛ける。
『試合が終わればノーサイド』。そんな言葉こそあれど、悔しいことには間違いないはず。それでも彼は、今しがた自分を打倒した男へと、この大会の主人公になるかもしれない人へと大会の行く末を託した。

さあ、後は決勝戦だけ。
完璧なプランニングで試合を優位に進め、そして必殺技の撃ち合いを制して。またひとつ託されたものを増やして、球琪湯米選手は最後の戦いへと臨む。

タカラトミーモール