WIXOSS DIVA MEETS ARTS
第一章【SIDE レイ】
「だったらレイ一人でやりなよ」
DIVAチーム解散の時の決まり文句。本気でバトルしない、遊びでバトルしてるチームメイトにそれを指摘すると、いつもこの言葉が返ってきた。
私に協調性が欠けてるのは、私自身もよく分かってる。熱くなると、つい厳しい言葉を浴びせてしまう悪い癖も自覚してる。
でも、だからといって、譲れないものはある。
私にとって、それがWIXOSSだった。
世界規模で大人気のカードゲーム。己の力のみで優劣が決まり、勝てば評価される。承認欲求をくすぐられる人も多いけど、私の目的は違う。
私は、誰かに認められたいのではなく、「自分は何が出来るのか」を知りたかった。
勉強もスポーツも、努力次第で成績を変えられる。でも、WIXOSSは違ってた。
考えに考えて組んだデッキでも、バトルでは運や相手との相性などが絡んで思い通りにはいかない。常に目の前には、ままならない状況が立ちはだかっている。
しかも、WIXOOSのDIVAバトルは、三人一組のチームで行うバトル。
(自分で言うのは恥ずかしいけど)協調性に欠けてる私にとっては最悪の相性のカードゲームだと思う。
でも、だからこそ、面白かった。
こんな私が、そんなルールで、一体どこまで戦えるのか。
自分はここで、何が出来るのか。
それを試したくて、私はWIXOSSを、DIVAバトルを始めた。
遊びじゃなく本気で、最後まで諦めず共に戦ってくれる仲間が見つかるまで、いくつものチームを渡り歩いて、そのたびに言い争いになり、チームを解散に追い込んだことも数知れず。
おかげで「人のことを考えない、冷たいやつ」ということで、「アブソリュート・レイ」なんていう承服しがたい渾名まで付けられてしまった。
それでも私は、誰になんと言われようと仲間の条件だけは妥協したくなかった。
そして、ようやく見つけた、最高の仲間。ヒラナとアキノ。
この二人と一緒なら、私は全力で戦える。最後の最後まで、三人一緒に戦える。
この三人なら、限界も超えられる。
それが、私の見つけた、私たちのDIVAチーム『No Limit』。
この三人で、WIXOSSの頂点を目指す。その志を胸に、私たちはWIXOSSランドでバトルを続けていた。
そんな時だった。
新たなカード『アーツ』と、それを使った大会『ミーツアーツ』の開催が発表されたのは。
『アーツ』とは、DIVAバトルでいえば『ピース』のような、一言で言えば必殺技のようなカードだ。
ただし一つだけ、ピースと違う点があるとすれば――一人用のカードというところ。
つまり、アーツを使った大会ということは、『ミーツアーツ』は私たち一人一人、ソロで戦う大会なのだ。
この新機軸の発表に、WIXOSSランドは騒然となった。これまで三人一組のバトルが当たり前だと思っていたところに、突然ソロバトルの開催が決まったのだから、それも当然のことだ。
更に、『ミーツアーツ』への参加エントリーは個人単位で、参加者はWIXOSSランドの運営側からランダムで指定されるバトルを繰り返し、その勝敗によってポイントが与えられるという大会ルールが発表されると、WIXOSSランドはまさに賛否両論、真っ二つの大騒ぎとなった。
私の所属する『No Limit』も、例外ではなかった。
『ミーツアーツ』のルールを知ったヒラナは、まるで抜き打ちテストを聞かされた時のようなパニックだった。
「じゃあアキノちゃんやレイちゃんともバトルするってこと!? 『No Limit』は解散なの!? そんなのやだーーーっ!」
「お、落ち着いてヒラナちゃん。エントリーは個人だけど、チームは解散しなくても大丈夫だから」
アキノが必死に宥めるが、チームメイト同士のバトルが想定されるケースであることは変わりがない。
でも私は、それを知っても不思議なほど落ち着いていた。
いえ、むしろ――。
「レイちゃんは冷静だよね。あたしたちと本気バトルするの、平気なの?」
「ルールなら従うしかないでしょ? それに……私は楽しみよ。あなたたちとバトルするの」
そう。私はこのルールを知って、むしろワクワクしていたのだ。
最高の仲間と認めた二人と本気でバトルする機会は、DIVAバトルだけ続けていたら起こり得ないことだったから。
もちろん、『No Limit』が解散したらあり得る話ではあるけど……そんな機会は、想像をしたくもない。
「ヒラナはイヤ? 私とバトルするの」
「う、い、イヤってことはないけど……レイちゃんはきっと一人でも強いだろうし、強い相手とバトルするのは楽しいし……」
「私も同じよ。あなたたち二人の強さを、私は誰よりも知っている。だからこそ、本気で戦ってみたいの」
DIVAバトルと他のカードゲームとの一番大きな違いは、団体戦であること。
個人戦より奥深くて難しいからこそ、私たちをここまで夢中にさせてるのだと思う。
だからこそ、私はこの『ミーツアーツ』という個人戦の機会を楽しみたかった。
私自身が団体戦より個人戦に向いてると思うから、というのは勿論のことだけど、チームを離れた皆がどんなバトルをするのか、一人の力でどこまで戦えるのか。それを見てみたいというのが、私の本音。
ヒラナの困惑は予想していたけど、驚いたのはアキノがかなり前向きだったこと。
「私も、レイちゃんと同じ気持ち。いつも二人に頼ってばかりだったけど、私も自分一人の力でバトルしてみたい!」
「おおおっ! アキノちゃんが燃えてる!」
「ヒラナはどうする? 無理にとは言わないけど」
ちょっと嫌な言い方だったかな、とは思ったけど、こう言えばヒラナがどう答えるか、私はよく分かっていた。
「あたしもやるっ! 2人に負けてられないもん! 『No Limit』の3人で、『ミーツアーツ』のてっぺんを目指そう!」
こうして私たち3人は『ミーツアーツ』に参加することになった。
他のDIVAチームの面々も、軒並み参加を表明して、遂にWIXOSSランド初のソロバトル大会が始まった。
発表直後こそ賛否分かれていたものの、大会が始まると批判の声は小さくなっていった。その一番の要因は、個人戦なので「誰でも参加可能」という点だ。
DIVAバトルの「3人一組」というルールがなくなったため、チームを組んでいなかった人達も参加が可能になり、エントリー数は過去最高になった。
更に、チームという括りから離れたDIVAたちは、それぞれの個性を生かしたバトルを披露し、またチームメイト同士のバトルも、普段は決して見られない対戦カードとして注目され、『ミーツアーツ』はDIVAバトルに匹敵する盛り上がりを見せていた。
大会が進行すると、各DIVAたちの個人戦に対する向き不向きが見えてきたのが興味深かった。
『デウス・エクス・マキナ』の3人は、個人戦になっても実力はトップクラスだった。
「プロデューサーに言われたのよ。ソロでも勝てるのが本物の強さだって」
「自分のことだけ考えればいいから、正直めっちゃやりやすいよねー」
「ソロでも揃って強い。そろそろソロデビューかも……ふふっ」
マキナのダジャレもノリノリだ。面白くはないけれど。
逆に『Card Jockey』の3人は苦戦しているようだった。
「にゃーっ! なぜにゃ! 全然勝てないにゃーーーっ!」
「いつの間にかメンバー同士、頼り切ってたというか、もたれ合ってたというか」
LOVITが気づいたのは、DIVAバトルでのチームワークの良さはミーツアーツでは無意味ということ。むしろ3人にはマイナスに働いていたのかもしれない。
一方で、Dr.タマゴたち『うちゅうのはじまり』の3人は、DIVAバトルの時より強いように感じた。
それを伝えると、3人は当然といった様子で答えてくれた。
「そもそもボクらは、同じ目的の下に集まった『同志』だからね。キミたち他のチームとは根本的に違うんだ」
「我らにとっては、目的達成のためならば勝敗すら二の次。まさにWIXOSSランドにおける異端者と言わざるを得ないだろう」
ノヴァの言うとおり、この3人は確かに私たちとは違う存在のようだった。
『DIAGRAM』の3人とは早々にバトルが組まれたけど、大会に臨む姿勢や強さは三者三様だった。
「ソロバトルの頂点……まさに私にこそ相応しい場所! さあ、かかってきなさいノーブレーキの皆様!」
……相変わらず『No Limit』の名前を覚える気がなさそうなムジカは、威勢のいいセリフとは反対に、私たち3人を相手に3連敗。自己中心的っぽく見えるけど、その性格は個人戦の成績とは関係がなさそうだ。
サンガは……仲直りしたはずなのに、やっぱり私にだけは負けたくないらしい。明らかに他の人とのバトルより気合いが入った様子だった。結果的には私が勝ったけど、正直、DIVAバトルの時よりも遙かに手強かった。
マドカとの対戦は、私も楽しみにしていたけど、私以上にマドカが待ち望んでいたものだったらしい。
「やっとあなたと戦える……ちゃんと見て。これが今のマドカだよ!」
彼女にWIXOSSを教えたのは私。初めてバトルしたのも私だ。色々あって、別々のチームになった今も、マドカにとっての目標は私なんだ。
お互いにチームを離れてのバトルは、あの日のように「魁令」と「摩訶円」に戻ったように楽しかった。
紙一重で私が勝ったけれど、次に戦う時はどうなるか分からない。本心からそう思えるほど、マドカは強くなっていた。
こんな発見も、全ては『ミーツアーツ』が開催されたからこそ。私は心からこの大会を楽しんでいた。
でも、楽しんでいるものばかりではなかった。
大会が進むにつれて、楽しめていないものの数は増えていったように感じた。明らかに途中からWIXOSSランドの空気が変わったのだ。
勝敗によるポイントの差が現れるに従って、競争意識に拍車がかかるのは当然のこと。
だけど、「個人戦」の今大会ではライバルは周りの全員。今まで仲間だったチームメイトも「敵」となる。
つまり、今現在のWIXOSSランドは、「味方は自分以外にいない」という非常に殺伐とした状況になっていた。
「みこみこのデッキ、勝手に見ないでよ! 」
「はあ? ウチのデッキに変なカード入れた人に言われたくないんですけどー!」
「まほまほだって、あーしのバトルの邪魔したくせに!」
チームワークだけは良かった『きゅるきゅる~ん☆』が人前で大げんかしているのにも驚いたけど、気になったのは、それを気に止める人が全然いなかったこと。
面白がるにしろ、関わらないように避けるにしろ、人前で騒いでいたら注目されるものだけど、今は誰も彼女たちを見ず、険しい表情で足早に素通りしていく。
みんな、疑心暗鬼に駆られて、自分のことだけで手一杯だったのだ。
ヒラナとアキノも、WIXOSSランドの空気の変化に気づいたらしく、不安そうな顔をしていた。
「バトルの後に握手しようとしたら、手を叩かれちゃった……」
「みんなピリピリしすぎ! もーフインキ最悪だよ!」
周り全員が敵という状況は、大会に真剣味と緊張感を与えるので、私も最初は悪いことだとは思わなかった。
でも、団体戦のDIVAバトルに慣れていたWIXOSSランドにとって、アーツを使った個人戦という大きな変化は、まさに劇薬のように環境を一変させてしまった。
そんな時。WIXOSSランドに、ある「噂」が流れた。
私たち3人の中で、最初に聞きつけたのはヒラナだった。昭乃のアルバイト先であるカードショップ『Heaven’s Door』に、彼女が血相を変えて駆け込んできた。
「令ちゃん昭乃ちゃん大変! DIVAバトルが無くなっちゃうかも!」
その「噂」とは、今後のWIXOSSはアーツを使用した個人戦を主軸にして、3人一組のDIVAバトルは終了させる、というものだった。
私は、にわかには信じられなかった。いくらアーツが人気で、『ミーツアーツ』が盛り上がっているとはいえ、WIXOSSを世界的なカードゲームに押し上げたのは、間違いなくDIVAバトルの人気があればこそだ。
それを簡単に終わらせるなんて、いろんな意味であり得ない。
『Heaven’s Door』の店長さんも困惑していた。お店の売り上げを左右する重大事項なので当然なのだけれど、店長さんの心配は他にもあった。
「DIVAバトルが終了して、全員がソロになったら……チームは全て解散、ってことなのかしら……」
そう。もしも、この噂が本当なら……DIVAバトルが終わってしまうなら。
私たちの『No Limit』も終わってしまう。
「それだけじゃないよ! 『夢限少女』にも二度と会えなくなっちゃう! ホントに幻になっちゃうよ!」
ヒラナの憧れ。ううん、全てのDIVAにとっての憧れであり、目標でもある伝説のDIVAチーム『夢限少女』。
今は表立った活動はしていないけれど、いつか彼女たちとバトルをすることが、私たちの「夢」。
でも、DIVAバトルが終わってしまったら、その夢は幻になってしまう。
私たちは情報収集を始めた。でも、公式発表ではない、あくまで「噂」の域での話なので、雲を掴むような作業だった。
Dr.タマゴやエクスのような情報通の人たちにも話を聞いたけれど、確証を得ることは出来なかった。
「しかし、状況証拠は多い。『ミーツアーツ』の参加者は、DIVAバトルのおよそ三倍だからね」
「3人一組だった参加者が個人で参加してるんだから、当然と言えば当然よ。この差は、運営が大きく方針転換するには十分な理由になるはず」
2人の推理は説得力があるように感じた。
そして、噂の正誤について確証が無いことが、逆に私たちを不安にさせていた。
その日を境に、WIXOSSランドはアーツの発表直後よりも大きな騒ぎとなっていった。賛否についてもあちこちで議論され、どちら側の人もかなり熱く語るようになって……『ミーツアーツ』によって生まれたギスギスとした空気は、ここに来て最悪の状況を迎えていた。
『ミーツアーツ』参加者たちの受け止め方も様々だった。「噂」を信じ、WIXOSSを辞めてしまう者もいれば、逆にこの噂をきっかけにWIXOSSを始める者もいたり。
既にチームを組んでいた人たちの混乱は特に大きく、これを機に本当にチームの解散を決めたところもあった。
一方で、個人戦でケンカ状態となっていた『きゅるきゅる~ん☆』は、それぞれが「チーム解散には反対!」「あーしたちは、3人で一つ!」「『きゅるきゅる~ん☆』は永遠不滅!」と宣言し、再び意気投合。なんだかんだで仲のいいところを見せていた。
私たち、『No Limit』はというと。
アキノは落ち込み、バトルの戦績も惨憺たる有様になっていた。
ヒラナは憤懣やるかたないといった様子で、ずっとふてくされていた。
私は……正直、考えを決めかねていた。
運営が決めたことなら従うしかないし、イヤなら辞めればいい。それだけのこと。
そう、それだけのことなのに、私は決められずにいた。
『ミーツアーツ』に参加して、自分が個人戦に向いていることを再認識した今でも、やっぱり私はDIVAバトルが好きなのだ。
ヒラナと、アキノと、私。この3人で、一緒に戦うのが好き。
この3人で、強い相手とバトルするのが好き。
『No Limit』として、3人で頂点を目指すことが、何よりも大好きだった。
「……やめたくないわ。DIVAバトルも……『No Limit』も」
誰に言うでもなく、私は呟いた。
でも、そのために私に何が出来るのか。私はその答えを見つけられなかった。
不確かだけど衝撃的な「噂」によって混乱が生じつつも、『ミーツアーツ』は滞りなく進行していった。
「噂」以降、大会をリタイヤする人がいたり、アキノのように戦績を落とす人もいたけど、私は変わらず最後まで続けようと思っていた。
どんな理由があろうと、一度始めたことを途中で投げ出したくなかったし、続けるなら勝ちたかったから。
アキノは「レイちゃんならそうすると思った」と、笑顔で応援してくれた。
一方で、「噂」以降のヒラナは、どこか様子がおかしかった。
珍しく難しそうな顔で考え込んでいたかと思ったら、急に何かを思いついたようにニヤニヤしたり、いつも以上に真剣にバトルをしたり。
悩んだり、はしゃいだり、浮き沈みが激しいのはヒラナらしいのだけど、どうしたのか聞いても答えないのはヒラナらしくはなかった。
でも、バトルでの強さは目を見張るものがあった。デウス・エクス・マキナの3人にも勝ち、「噂」以降は全勝という驚愕の戦績で、ヒラナは『ミーツアーツ』の優勝決定戦に勝ち進んだ。
そして、そんな彼女と決定戦で戦うことになったのが――私。
図らずも、『ミーツアーツ』の頂点を決めるバトルは、同じチームの仲間同士の組み合わせとなった。
さすがに私も、こんなことになるとは想定していなかった。
優勝決定戦の会場は、ここまでの大会の盛り上がりを象徴するような超満員。
チームメイト同士という対戦カードも、まさに個人戦ならではの偶然が生んだものとして、大いに注目を浴びていた。
観客席の最前列では、アキノが心配そうに私とヒラナを見守っていた。
「ヒラナ、いいバトルをしましょう」
バトル開始前、私が握手を求めると、ヒラナは力一杯握り返してきた。
その顔は、今まで見たことがないほど、気合いの入った表情だった。
「負けないよ。今日は絶対勝つ!」
揺るぎない、真っ直ぐな瞳。
いつだって本気でバトルをしていたヒラナだけど、今日の彼女は明らかにいつも以上に本気だった。
私だって、負けない――そう答えようとしたけれど、言葉が出なかった。
ヒラナの気迫に、完全に飲まれていた。
彼女の言動に呆れることは何度もあったけれど、彼女の実力を見くびったことは一度も無かった。彼女の意志の強さ、発想の豊かさ、絶対諦めない根性は、尊敬もしていた。
でも、バトルでは私の方が絶対に強いという自負があった。
実際、練習バトルでは常に私が勝っていたし、ヒラナの長所も短所も知り尽くしていたから、彼女のバトルのパターンも予想が付いていた。どんな状況になっても、私は負けない自信があった。
この日、この瞬間までは。
私はその時、初めてヒラナに対して「負けるかも……」と思った。
思ってしまった。
思った時点で、勝敗は決まっていたのだろう。
私は自分の予想を覆そうと懸命に戦ったけれど、敵わなかった。
『ミーツアーツ』の優勝者は、ヒラナだった。
不思議と、悔しさは無かった。
全力で、本気で戦ったという自負があったから。
そしてなにより、勝ったのが最高の仲間で、最高の友達だったから。
「おめでとう、ヒラナ。強かったわ」
バトル前と同じように、私は握手を求めた。
優勝したヒラナは、バトル前とは違って、すっかりいつものヒラナに戻っていた。
「レイちゃん……あたし、あたし……うぇえぇえぇえぇええん!!」
人目もはばからず大泣きのヒラナ。私が泣かせてしまったようで、どうにも居心地が悪かった。
「おめでとうございまーす! それでは優勝したヒラナさんにインタビューでーす!」
いつものように、インタビュアーのサーバント・サバちんがやってきて、泣いてるヒラナにマイクを向けた。
ヒラナはようやく泣き止むと――向けられたマイクをいきなり奪い取った。
そして、戸惑うサバちんを尻目に、いつになく真面目な顔で話し始めた。
「負けたら何を言っても言い訳になっちゃうから、絶対勝ってから言いたかったの!」
突然のマイクパフォーマンスにざわつく観客たち。ヒラナは気にせず、はっきりとした口調で言い放った。
「今、『ミーツアーツ』で優勝したけど、あたしは! DIVAバトルも続けたい! 続けてほしい!!」
突然の言葉に、ざわついていた観客たちは一瞬静まりかえった。
「3人でも1人でも、WIXOSSに変わりはないから! あたしは、どっちも好き! どっちもやりたい! だから、どっちも続けてください! お願いしまーーーす!」
誰に向けてのお願いの言葉か、その場にいた人たち全員が分かっていた。
そしてそれは、3人か1人か、どちらかを選ぼうとしていた全ての人の心に響いた。
もちろん、私にも。
私たちは、常に何かを選択させられてきた。仲間や、カード、バトルをするのかしないのか。それが当たり前のことだと、誰もがそう思ってきた。
でもヒラナは、そんな世界の理も軽々と超えていく。
やりたかったら、やればいい。どちらか選ぶのではなく、どちらもやる。そんな選択肢があってもいいはず。
それを気づかせてくれたヒラナに、超満員の観客から万雷の拍手が送られた。
(やっぱり、敵わないわね……)
バトルだけじゃない。彼女のWIXOSSに対する思い、目標に向かって真っ直ぐに進む意志、最後まで諦めない心の強さ。敵わないものばかりだ。
だからこそ、私はヒラナが好き。
ヒラナと仲間になれて、友達になれて、本当に良かった。
私は拍手喝采に照れてるヒラナの手を握ると、高く掲げて勝者を讃えた。更に大きくなる拍手と歓声。
するとヒラナはマイクを握り直し、高らかに宣言した。
「だったらやろうよ! 3人でも1人でも、みんなが楽しめるような大会を! 誰でも参加できる、みんなの大会を!」
――これは、ヒラナの一言から始まった、私たちみんなの新たな物語。
第一章・完 つづく
