WIXOSS DIVA MEETS ARTS
第二章【SIDE アキノ】
もう慣れっこだ。いつものことだもん。
平和ちゃんの突然の「思いつき」に振り回されるのは。
小学生の時に平和ちゃんが「線路はどこまで続いてるのか見てみたい!」と言い出して、線路沿いを真っ暗になるまで歩いていって、捜索願が出されたり。
家庭科の授業でゆで卵を作る時、「電子レンジを使った方が早いかも!」と思いついて、試したら卵が大爆発して大騒ぎになったり。
女子野球部が廃部になるかもって噂を聞いて、金属バットを持って校長室へ抗議に行った時は、さすがに退学かと思ったし。
だからもう、平和ちゃんがまた何かを思いついても、多少の事じゃ驚かないって自信があった。
だけど……今回のことは、「多少」じゃなかった。
まさか「ミーツアーツ」の優勝インタビューの最中に、新しい大会の開催を提案するなんて。
もう今さら「突然変なことを思いつかないで!」と言っても無駄だとは思うし、止めたって止まらないのも分かってる。
だけどせめて、前もって私には話しておいてほしかった。心の準備する時間が欲しかった。
ホント、今さらだけど。
世界中が注目してるWIXOSSの大会、その決勝戦で勝った直後の宣言だから、注目度も反響もとても「多少」じゃ済まなかった。
その日のうちにこのニュースは世界中を駆け巡って、WIXOSSランドはこの話題で持ちきりになった。
そして、これによって起こった問題が二つ。
一つ目は、「No Limit」が注目を浴びてしまったこと。
ヒラナちゃんが注目されるのは当然のことだ。話題の発端で、まさに中心人物だから。どこへ行ってもみんなの視線が集まり、様々な声をかけられている。
そのヒラナちゃんの対戦相手で、チームメイトのレイちゃんも注目されて当然。元々ファンが多かったレイちゃんには、新たに3つのファンクラブが作られたとか。
……問題なのは、チームメイトというだけで私まで注目されていることだ。「ミーツアーツ」では早々に敗退して、ほとんど何も出来なかったのに。
「あの子でしょ? 三人目のNo Limit」
「やっぱり強いんだろうなあ。すごいよね~」
「最強の二人をまとめ上げる存在……もしかしたら、あの子が一番強いのかも」
「レイ様と同じチームだなんて、羨ましい……」
噂話もあちこちから聞こえてきて、恥ずかしくて仕方がなかった。
二つ目の問題は――みんなは大騒ぎだったけど、正直、私は予想がついていた。
ヒラナちゃんがあの提案をした時、きっとこうなるだろうなぁ、と。
そして、それに気づいた時、真っ先に怒るのは……レイちゃんだろうなぁ、ってことも。
「それじゃヒラナは、何にも考えずにあんなことを言ったの!? みんなが見てる前で!」
「な、なんにもじゃないよ! 誰でも参加できるWIXOSSの大会をやりたいって、ちゃんと考えてたもん!」
「それはただの希望でしょ! 夢! 願望! それをどう実現させるかを考えてから発言しなさいって言ってるの! まったくもう!」
やっぱり。ヒラナちゃんは、なんにも考えてなかった。
ただ「やりたいこと」を「やりたい!」と宣言しただけ。だから、大会の概要とか計画なんて、まったく頭になかった。ほぼ完全にノープラン。レイちゃんが怒るのも当然だよね……。
私も当然呆れたけど、ここまでは予想できていた。
だって、ヒラナちゃんだもん。考える前にとにかく動く。それが私の幼馴染みの平和ちゃんだから。
とはいえ、もはや「平和ちゃんだから仕方ない」で済ませられる状況じゃない。
思いつきの発言だったとしても、もうみんなは「やりたいこと」じゃなく「やること」って信じてるから。
そんなわけで、私と令ちゃんは、この雲を掴むようなノープランの計画を実現させるために動き始めた。
授業の合間を縫って、資料を集めたり、色々話し合ったりしながら、まずは企画書という形にまとめることにした。
でも……思っていた何倍も大変な作業だった。
何をやるのか、どう行うか、参加資格は? 期間は? WIXOSSランドの運営側への許可は? 考えることも決めることも、山ほどあった。
一つアイデアを思いつくと、二つも三つも問題点が見つかったりして、計画はまったく進んでる感じがしなかった。
むしろ、やればやるほど実現から遠ざかっているような……そんな感じがした。
令ちゃんも、クラス委員として学園祭の運営なんかに携わった経験はあったけど、「計画の規模が違いすぎて、比べものにならないぐらい大変」と、珍しくちょっと弱音を吐いていた。
平和ちゃんにも、ようやく今回の発言の重大さが伝わったらしく、毎日平謝りでお茶やお菓子の差し入れをしてくれた。
「ううっ、ごめんね。私が変なこと思いついたばっかりに……」
そんな平和ちゃんに対して、令ちゃんはまだ怒ってるかな~と思ってたけど、ちょっと違ったみたい。
「謝るなら、考え無しに宣言したことの方にして。平和が思いついた計画、私も賛成なんだから」
三人でも、一人でも、誰でも参加できる大会は、きっと楽しいに違いない。
令ちゃんも、そう思っていた。
私も、同じ気持ち。
私たちの気持ちは一つだった。それが嬉しくて、私たちは顔を見合わせて笑った。
笑っていられるほど余裕のある状況じゃないのは分かってるけど……。
そんな時。私のスマホにメッセージが届いた。
送信者は――『Dr.タマゴ』。DIVAチーム「うちゅうのはじまり」のリーダー、タマちゃんだ。
『ボクの計算通りなら、恐らくキミたちは例の大会の計画について相当苦労しているはずだ。そこで、キミたちに話がある。今すぐWIXOSSランドに来てくれたまえ』
届いたメッセージを見た私たち三人のリアクションは、三者三様だった。
「すっごーい! なんで苦労してるってわかったの!? どっかで見てる!? 見られてる!?」
予想が的中してることに驚く平和ちゃんに対して、令ちゃんは面白くなさそうな顔。
「……気に入らないわね、全部見透かされてるみたいで」
私はといえば、ここでも「やっぱり」という感想だった。
天才科学者で、鋭い洞察力を持ってるタマちゃんには、バトルの時のように私たちの考えなんて「全てお見通し」だと思ったから。
「どうしようか。とりあえず、行ってみる?」
「行こうよ! 実際苦労してるんだし。助けてもらえるかもしれないよ」
私の問いに、平和ちゃんは即答。令ちゃんはまだ乗り気じゃ無かったけど、最終的には「仕方ないわね……」と了承して、私たち三人はWIXOSSランドへ向かった。
指定された場所には、タマちゃんたち「うちゅうのはじまり」の三人がいた。
「どうやら、ボクの計算通りだったようだね」
「唐突な宣言からの経過時間と情報収集により、計画の進行状況は全て把握済み……当然の結果です、ドクター」
ノヴァさんたちの言葉にレイちゃんはムッとしていたけど、私は藁にもすがる思いでタマちゃんたちに助けを求めた。
「やりたいことは決まってるんだけど、どうやればいいのかが分からなくて……みんな、あんなに喜んでくれたから、どうしても実現させたいの……」
私の言葉を待ってたかのように、タマちゃんはふふんと得意げな顔になった。
「よかろう。夢を実現させることは、我々の目的でもある。バン、例のモノを」
「承知しました」
タマちゃんが開発したAIのバンちゃんから、私宛にファイルが送信された。
「これって……『WIXOSS新大会 企画書 草案』?」
「結局のところ、キミたちがやりたいのは、『一人でも三人でも、誰でも参加できるWIXOSSの大会』だろう? いささかアバウトではあるが、要するに『なんでもできる・誰でもできる大会』ってわけだ」
「そう! そのとーりっ! さすがタマちゃん、わかってる!」
「ありがとうヒラナ。そこでだ、WIXOSSランドの利用規約や運営スケジュールを基に、想定される参加人数や使用会場のキャパなどを考慮しつつ、このイベントの概要を作成してみた。これをフォーマットとして、細かな数値や内容を修正すれば、正式な企画書となるはずだ」
タマちゃんの言うとおり、送られたファイルは企画書としてはほとんど完成していた。あとは私たちのやりたいことや開催期間などをまとめてこれに当てはめれば、運営側に提出することが出来るはず。
何から手を着ければいいかも分からず、手探りで進めるしかなかった私たちにとって、こんなにありがたいものはなかった。さすがはタマちゃん、すごいなあ。
でも……正直に言うと、ちょっと悔しかった。
(やっぱり、私たち三人だけで進めるのは、無理だったのかな……)
自分たちの力不足を見せつけられたみたいで……バトルなら、もう完全に心が折れてたと思う。
私も、もっと頑張らないと……。
レイちゃんを見ると、私と同じように複雑な表情をしていた。
ふと目が合うと、二人とも苦笑い。そうだよね。悪いのは、力が足りなかった自分たちだもん。怒るなら自分自身にだし、タマちゃんとの能力の差を見せつけられたら、もう笑うしかないよね。
だから私は、素直にタマちゃんたちに感謝した。これなら私たちの計画は、本当に実現させられそう。
でも、ここで疑問が一つ。
私が質問しようとしたら、先にヒラナちゃんが聞いた。
「でもでも、どーしてタマちゃんたちはここまでしてくれるの? あたしが勝手に言い出したことなのに」
そう。協力には感謝しかないけど、動機がわからなかった。
するとタマちゃんは、珍しく一瞬キョトンとした。「なぜそんなことを聞くのか」という、少し驚いた様子にも見えた。
そして、「うちゅうのはじまり」三人揃って、にっこり笑って答えた。
「決まってるだろう。『面白そうだから』だよ」
「全てのDIVAが集う宴、まさにサバト……ふふふ、参列せざるを得ない」
「人の行動原理とは、詰まるところ『興味があるかどうか』ですから。皆さんの提案には、我々を引きつけるだけの魅力があるということです」
「そっかぁ……えへへ、そっかそっか」
ヒラナちゃんは照れながらも、すごく嬉しそうだ。
私もレイちゃんも、同じ気持ち。
タマちゃんたちのおかげで、そこから先はトントン拍子で進んでいった……って言いたいところだったけど、やっぱりそこからも色々大変だった。
タマちゃんたちに会った翌日、『Card Jockey』のLIONちゃんが私たちの所に来て、「なんでもやれるなら、MCバトルをやりたいにゃ!」とか言い出した。
MCバトルは、ヒップホップをやる人たちがラップでバトルすること――らしいけど、それと私たちの計画にどんな関係が?
「MCバトルやりながら、DIVAバトルもやりたいにゃ。ヒップホップとWIXOSS、両方楽しめてお得にゃー!」
聞けば、この計画を始めるずっと前から考えていたことみたい。「なんでもできる大会」ってことで、それなら! と思って提案しに来たらしい。
「こんな面白そーな計画、なんで黙ってたにゃ! 早く教えてほしかったにゃ!」
LIONちゃんはちょっとだけ恨めしそうに言ってた。多分みんなそう思ってるよね。ヒラナちゃんを除いて。
その後には、『DIAGRAM』の三人がやってきた。いつものように、ムジカちゃんは高笑いしながら。
「おーっほほほ♪ ご機嫌いかがかしら、ノルマンディーの皆様」
「もう『ノ』しか合ってないよ! 何しに来たの!?」
ヒラナちゃんのツッコミをモノともせず、ムジカちゃんたちも自分たちの計画を提案してきた。
「チーム登録をしなくても、その場で組んだ三人で参加できるDIVAバトルをやりたいなって。それならマドカも、DIAGRAMのままでレイと同じチームになれるでしょ?」
マドカちゃんの言葉に、サンガちゃんは面白くなさそうな顔をしてたけど、チームを組み替えてのDIVAバトルは確かに面白そうだ。
みんなの提案を聞いて、だいたいの計画がまとまりかけたところで、急に押しかけてきたのは、『きゅるきゅる~ん☆』の三人だった。
「ちょっと! なんでみこみこたちの話を聞きに来ないのよ!」
「あーしたちのこと無視する気!?」
「呪っちゃうわよ一生!」
……誰も無視なんかしてないし、こっちから話を聞きに行ってたわけでもないのに、なぜか理不尽にも怒られてしまった。
とはいえ、放っておくと余計に面倒なことになりそうだったので、ヒラナちゃんが呆れながら一応話を聞いた。
「バトル後のライブのハードルを下げなさいよ。勝った人限定じゃ、強い人のライブしか見られないでしょ」
確かに、その通りだった。通常のDIVAバトルではそれが勝者の特権だったことで盛り上がったけど、今回は「みんなが参加できる大会」だから、ライブをやれる条件も変更したほうがいいかも。私は素直に感心した。
でも……レイちゃんとヒラナちゃんの一言は余計だったと思う。
「珍しく、いいことを言うわね」
「うん。勝った人だけじゃ、きゅるきゅる~ん☆はライブできないもんね」
「ぬぁんですって!?」
「最近あーしらのことナメすぎっしょ!」
「覚えてなさい! ルール変えなかったら、絶対邪魔してやるから!」
三人はカンカンになって帰って行った。面倒なことにならないよう、気をつけよう。
こんな感じで、みんなからの要望や提案はひっきりなしに届いた。全てを盛り込むことはできなかったけど、なるべくみんなのアイデアを取り入れながら、私たちは企画書をまとめていった。
在る時、レイちゃんがふっと微笑みながらこんなことを言った。
「不思議ね。作業量は今の方が圧倒的に多いのに、三人だけでやってた時よりずっと楽しいわね」
そう。三人だけで手探りで進めてた頃より、やりたいことも、やらなきゃならないことも増えてるのに、今は全然辛くなかった。
「アレだよアレ! 学園祭とか、町内のお祭りとかの準備してる時と同じ気分! 毎日ワクワクして、『こんな日がずっと続けばいいのになー』って思う、あの感じ!」
「お祭りかぁ……そうだよね。WIXOSSランド全体を巻き込んだ、おっきなお祭りだよね」
ヒラナちゃんの言うとおり、私もワクワクしていた。みんなで一緒に、一つの目標に向かって突き進む。まさにお祭り前夜のような気分だった。
その時。
私はふと、あることを思いついた。
ヒラナちゃんほどじゃないけど、とんでもない思いつきだと自分でも思った。
だから、その時は言わなかった。この企画書が認められて、大会の開催が決定したら、みんなに提案してみよう。
そう決めて、私は胸の奥に秘めておいた。
(全部うまくいったら、きっとみんな驚くだろうなぁ……平和ちゃんも、喜んでくれるかな……)
幼馴染みの弾けるような笑顔を想像して、私はますますワクワクした。
絶対うまくいく。みんなでここまで進めてきたんだもん。うまくいかないはずがない。
私はそう確信していた。
だから、あんな日が来るとは夢にも思わなかった。
まさか、みんなで作った企画書が、あっさりと却下されるなんて……。
「なんでなんで!? どーして!? 意味わかんないよーっ!」
ヒラナちゃんは戸惑いと憤りで大声を上げた。
レイちゃんも唇を噛んで、悔しさを露わにしていた。
私はというと……どうリアクションすればいいかわからないほど、頭の中が真っ白だった。
私たちが提出した企画書に対しての、WIXOSSランド運営側からの回答は、この一文から始まった。
『精査の結果、本企画の開催を認めない』
その後、長々とその理由について説明が書いてあった。
要約すると、「イベント運営の実績が無い者の企画としては規模が大きすぎて、正常な開催を保証できない」ということだった。
企画の細かな内容について問題があったというなら、私たちは修正して再提出するつもりだった。
でも、実績を理由に出されてしまったら、私たちにはもう反論の余地が無かった。
けれど、だからこそ、納得が出来なかった。実績が無ければ認めないというなら、「一人でも三人でも、誰でも参加できる・なんでもできる大会」なんて、誰にも開催できない。
私たち三人だけじゃなく、協力してくれたみんなも納得できなかった。
だけど……どうすることもできなかった。私は全身の力が抜けてしまった。
すると、その時だ。
ヒラナちゃん宛てにメッセージが届いた。
送ってきたのは、DIVAチーム『デウス・エクス・マキナ』のエクスさん。
そこに書かれていたのは、この状況を打開できる、唯一かもしれない方法。
レイちゃんは一瞬躊躇したけど、結局私たちはエクスさんの提案に乗ることにした。
他に道があるとは思えなかったから。
エクスさんの提案に従って訪れたのは、『デウス・エクス・マキナ』が所属する事務所。
彼女たちをプロデュースする、伝説のDIVAチーム『夢限少女』の一人、ミカさんの事務所だ。
DIVAとしての輝かしい戦績はもちろん、WIXOSSランドでのイベント開催の実績で彼女に敵う人は多分いないと思う。
「あの人に協力してもらえば、企画は通ると思うよ。まあ、無理にとは言わないけど」
エクスさんはニヤニヤしながら言った。いじわるだなぁ。他に方法が無いと分かってて言うんだもん。
この企画が実現できるなら、私たちは何でもするつもりだった。だから、エクスさんに言われるまでもなく、私たちはミカさんに会うなり三人揃って頭を下げた。
「お願いします! この大会、どうしても開催したいんです!」
私たちの言葉にミカさんは一切反応せず、黙って企画書を読み込んでいた。
そして、しばらくの沈黙の後、私たちに鋭い視線を向けた。
怖かった。逃げ出したくなった。でも我慢して、私たちはミカさんの言葉を待った。
投げかけられたのは、想像以上に辛らつなコメントだった。
「あなたたち、バカなの? 初めての企画でこの規模なんて、認められるわけがないでしょ。小学生に市長やらせるようなものよ。少しは想像力を働かせなさい」
……私たちは小学生以下という評価らしい。
でも、どんな評価が低くても、私たちはこの人に頼るほかになかった。悔しい気持ちを我慢して、三人でもう一度頭を下げた。
「経験も実績も足りないのは重々承知しています。ですが、それでもこの企画を実現させたいんです。そのためには、ミカさんの力が必要なんです!」
「お願いします! 何でもしますから!」
レイちゃんとヒラナちゃんの言葉を聞いて、ミカさんはまた少し黙り込んだ。
すると――急に怖いことを言い始めた。
「……何でもするって言ったわね?」
「え」
「協力してあげてもいいけど、二つ条件があるわ。一つは、この企画のプロデューサーとして、私の名前を出すこと」
それは当然のことだ。ミカさんの名前を出すことは、この大会にとっても、ミカさんにとっても、いい宣伝になるはずだから。
そして、もう一つの条件は――。
「バトルで、私に勝つこと」
「……は?」
私たち三人とも、理解が追いつかなかった。
なぜバトル? どうして? 子供向けのアニメみたいに何でも勝負で決める展開が突然訪れて、私たちは呆然としてしまった。
でも、ミカさんの考えはハッキリしていた。
「『弱者は何も手にできない』というのが私の方針よ。何かを手にしたいなら、あなたたちの『強さ』を示しなさい」
ミカさんの言葉は、私の胸に深く刺さった。
ヒラナちゃんにもレイちゃんにも、それぞれの『強さ』があった。
最後の最後まで諦めずに挑み続けるヒラナちゃん。
どんな時も自分を見失わずに勝利を目指すレイちゃん。
(そんな二人に対して、私は……)
『ミーツアーツ』大会でも、私は結局途中でリタイヤしてしまった。
勝てない、敵わないと分かると、どうしても心が折れてしまう。そんな自分の弱さを、私は嫌というほど自覚していた。
ミカさんの言葉は、「弱いあなたには何も与えない」と言われているようで、私の心はまた折れそうになった。
でも――今回だけは、折れるわけにはいかなかった。
みんなでここまで頑張ってきたことを、簡単に諦めるわけにはいかない。
だから!
「わ、私がやります! バトルします!」
ヒラナちゃんよりも、レイちゃんよりも先に、私が名乗りを上げた。
二人ともビックリしてた。ヒラナちゃんは、見たことないような顔だった。
「ど、どーしたのアキノちゃん!? 何か変なモノでも食べた!?」
「無理しないで。私がやるから」
「ううん。今回は、私にやらせてほしい。私も、みんなの力になりたいの」
ヒラナちゃんの一言から始まった、この計画。みんながそれぞれに協力して、アイデアを出して、ようやくここまで来た。
みんなの願いが叶うまで、あと一歩。
だから私も、何かをしたかった。そう思ったら、自然に体が動いてた。
『夢限少女』の一人、ミカさんの実力は、言われるまでもなく分かってる。
絶対勝てる、なんて自信は全くなかった。
でも、それでも私は戦う。
負けられない。負けたくない。こんなに強く思ったバトルは、これが初めてだった。
ある日のこと。
WIXOSSランドから全てのDIVAたちに、あるインフォメーションメッセージが届いた。
《『WIXOSS DIVA ON STAGE』開催のお知らせ》
それは、新たなWIXOSSの大会の案内。
参加資格は、「WIXOSSが好きな全てのDIVA」。
3対3のDIVAバトルでも、アーツを使った1対1のバトルでも、どちらでもOK。両方でもOK。バトルをしたい人が集まって、みんなでWIXOSSを楽しんじゃおう! という大会だ。
『きゅるきゅる~ん☆』の提案(お願い?)を採用して、バトル後のライブは勝っても負けても「やりたいひとがやれる」ことになった。
誰もが参加できて、誰もが楽しめる、そんな大会。
それが『WIXOSS DIVA ON STAGE』。
大会の概要が明らかになると、WIXOSSランドはまさに「お祭り騒ぎ」となった。
DIVAのみんなが喜び、大騒ぎする様子を、発起人のヒラナちゃんは嬉しそうに眺めていた。
「遂にここまで来たね……これもアキノちゃんのおかげだよ! ありがと~!」
「そ、そんな、私なんて……みんなの協力と、運営に掛け合ってくれたミカさんに感謝しないと」
そう。あの日のミカさんとのバトルは、私が勝った。
そして、約束通り、この大会のプロデューサーとして運営側と交渉してくれて、ようやく実現の運びとなったのだ。
あの日のミカさんが、本気の全力バトルだったのかは、私には分からない。
でも、バトルの後は何も言わずに協力してくれたので、とりあえず私の『強さ』を認めてくれたのかな?
「アキノが『バトルします!』って言った時も驚いたけど、まさかバトルの後にもっと驚かされるとは思わなかったわ」
「ホントだよ! あんなこと考えてたなんて!」
二人がこんなに驚くのを見て、私はちょっと恥ずかしかったけど、内心「やった!」と思ってた。
あの日、ミカさんにバトルで勝った後。
私はずっと胸に秘めていた『思いつき』を提案した。
それは、「この大会への、『夢限少女』の参加依頼」。
バトルの前に言ってたら拒否されたかもしれないので、勝った後に言ったんだけど、それでもミカさんは驚いて、最初は断ろうとした。
だけど、私の提案を聞いたエクスさんが大笑いしながら味方をしてくれたので、ミカさんも逃げられなくなったみたい。
「先に二つ条件出したのはミカPなんだから、負けたら当然二つ目のお願いも聞かなきゃダメなんじゃない? まさか伝説の『夢限少女』が逃げたりしないよねぇ?」
「くっ……覚えてなさい、エクス!」
そんなこんなで、なんと『WIXOSS DIVA DIVA ON STAGE』には『夢限少女』が参戦することになった。
とうとう憧れの夢限少女とバトルが出来る。ヒラナちゃんもレイちゃんも、当然私も大喜びだった。
これで問題は全て解決。あとは『WIXOSS DIVA ON STAGE』が始まるのを待つだけ。
――の、はずだったんだけど。
夢限少女の参加が決まった直後、またまたヒラナちゃんがとんでもないことを思いついた。
それは、とても大変なことだと、誰もが思った。
でも、想像しただけでワクワクする、とても素敵な「思いつき」だった。
反対する人はいなかった。もちろん私も大賛成。
みんなを喜ばせた、最高の「思いつき」。それは――。
「『WIXOSS DIVA ON STAGE』のテーマソングを作ろうよ! みんなで歌う歌を! もちろん、夢限少女も一緒にね!」
第二章・完 つづく
