WIXOSS DIVA MEETS ARTS
最終章【SIDE アザエラ】
カードショップ『Heaven’s door』
DIVAチーム『夢限少女』としての活動を休止してから数年、私はここからWIXOSSランドと、DIVAバトルに打ち込む少女たちを見つめてきた。
強い子、強くない子、真剣な子、遊び半分な子、人気のある子、無名な子……素質や性格は様々だけど、全員に共通しているのは「WIXOSSが好き」ということ。
WIXOSSを楽しみ、バトルに臨む彼女たちを、見守り、サポートする。それは、一線を退いた今の私の、一番の楽しみ。
だったのだけど――。
先日開催された『WIXOSS DIVA ON STAGE』大会に、『夢限少女』が数年ぶりに復帰したことで、私たちを取り巻く状況が大きく変わり始めた。
WIXOSSランドの運営側や、ヒラナちゃんたちDIVAの関心が【『夢限少女』は完全復活するのか】という点に集まるようになっていたのだ。
『夢限少女』のメンバーは、私・アザエラと、DIVAのプロデューサーとしても有名なミカ、DIVAバトルの解説なども努めるリエの三人。
リエはそもそも活動休止にも難色を示していて、復活にも前向きだ。
ミカは反対の立場。後輩のDIVAをプロデュースしている彼女にとって、自分たちは既に「過去の存在」という考えらしい。
そして、私はといえば……正直、決めかねていた。
さっきも言ったとおり、現役の、「今」のWIXOSSを楽しんでいるDIVAたちを見守り、応援することを、私は心から楽しんでいた。その立場から言えば、私はミカと同じで「過去の存在」なのだと思う。
でも、『WIXOSS DIVA ON STAGE』で久しぶりに本気のバトルをした時、現役時代を思い出して胸が高鳴り、言い様もなく熱くなったことも事実。改めて、自分が本当にWIXOSSが好きで、バトルが大好きなのだと再認識させられた。
大会の後、私たち三人は完全復帰するべきか否か、話し合いを重ねた。それは、活動休止を決めるまでよりも回数的に多く、時間的に長い話し合いだった。
ミカからは「それぞれがソロとして、復帰したい人だけが復帰すればいい」という意見が出たものの、リエは「『夢限少女』として復帰するなら、三人一緒が大前提」として譲らなかった。これは私もリエに同意だったけれど、そうなるとミカの同意がなければ『夢限少女』の復活は不可能という事になる。
結局、意見はまとまらず、今日に至っている。
三人による多数決なら、結論が長引いている責任は答えを決めかねている私一人の問題になるけれど、三人の総意で決めるとなると、果たして結論が出るのはいつになるのか……。
というわけで、私はミカとリエには内緒で、ある「作戦」を立ててみた。それは二人への、というより、答えを出せない私自身への一計でもあり、どんな結論になるかは私にも予想が付かない。
でも。ううん、だからこそ、私はちょっとワクワクしていた。私の作戦に、二人がどんな顔をするか。そして私たち三人がどんな結論に辿り着くか、全く分からない。まるでデッキからカードをドローする時のような、ドキドキとワクワクだった。
その日の午後。以前から約束していたとおりの時刻に、ミカとリエは『Heaven’s door』へやって来た。『夢限少女』の今後について話し合うために。
他にお客さんの姿はない。私たち三人はバトル用のテーブルに着くと、最初にミカが溜息交じりに話を始めた。
「何度言われても、私の考えは変わらないわよ。今さら私たちが復帰したところで、喜ぶのは運営と一部の懐古趣味のDIVAだけでしょ」
「そんなことないって。『WIXOSS DIVA ON STAGE』の盛り上がりは見たでしょ? 私たちの強さを見せつければ、現役のみんなは絶対燃えるはずだよ」
「それはリエの意見? それとも、WIXOSSランド運営側の考え?」
「両方だよ。あの大会での私たちのバトルは、運営の認識も改めさせたの。『夢限少女』は『かつての最強DIVA』じゃない。『今も変わらず最強のDIVA』ってね」
DIVAバトルの解説も務めるリエは、WIXOSSランドの運営側とも繋がりがある。その彼女の口から語られる言葉は、多数の現役DIVAをプロデュースするミカの自尊心を一瞬揺さぶった。
でも、だからこそミカとしては自分たちが現役に復帰することを良しとはしなかった。
「いつまでも『夢限少女』が最強ではダメなのよ。あの時、私たちがなぜ活動を休止したか、忘れたわけじゃないでしょう?」
忘れるわけがない。忘れられるわけがない。
私たち『夢限少女』が、人気も実力も絶頂の中で活動休止を決めたことについて、世間では様々な噂が飛び交った。
仲間割れとか、不正がバレるのを恐れてという誹謗中傷に近いものもあれば、私・アザエラが急死したからという呆れるようなデマがまことしやかに囁かれたりもした。
でも、本当の理由は――三人が共に、「限界」を感じたから。
三人でチームを組み、連勝を重ねて、私たちは間違いなくトップのDIVAになった。
けれど、その時点ではまだ、そこが限界点だとは思っていなかった。
私たちには、その更に先に大きな目標があったからだ。
ある日のバトル。互いに全力以上の力を出し、文字通り限界を超えるような激しいバトルの中。勝利と敗北の紙一重の狭間の中で、私たちは「あるもの」を見た。
全力の先、限界の向こうにあると思われる「それ」は、トップDIVAの中でも更に一部のDIVAしか見たことがなく、WIXOSSランドでは都市伝説のようなものとして語られることとなった。
限界を超えたその先、目映い光の中に垣間見た「それ」を、私たちはこう名付けた。
『マスターピース』と。
あれが一体何なのか。私たちはそれを突き止めるため、更にバトルを重ねた。
でも、何度戦っても、誰とどんなバトルをしても、マスターピースが何なのかは分からなかった。
そして、遂にはその片鱗すらも見られなくなった時、私たちは「限界」を悟った。
「あの時、最初にそれを言い出したのもミカだったわね……『これが私たちの限界』だって」
「私個人の意見ではあったけど、あれはあなたたちの本心でもあったと、今でも思ってるわ。誰もがそう思ってた。でも誰も言わなかった。だから私が言ったのよ」
自分たちで限界を決める――惨めで、残酷な結論。でも確かに、それが三人の総意だった。だから私たちは活動を休止したのだ。
未練は無かったと言えば嘘になる。限界を悟ってはいても、私とリエは諦めたくはなかった。その妥協案として、私たちは「解散」ではなく「活動休止」とした。
「本当は『WIXOSS DIVA ON STAGE』でも復帰するつもりじゃなかった。でも……あの子たちにハメられたわ。『負けたら『夢限少女』も参戦』って条件をバトルの前に提示されてたら、絶対負けなかったわよ」
「そんなこと言って~。結構楽しんでたじゃない? バトルも相当熱くなってたし~」
「なってないわよ! 不本意な参加ではあっても、やる以上は真剣にやる。それだけのことよ」
不愉快そうにミカは言った。不本意な参加という点は本心だったかもしれないけれど、急遽参戦した大会でのバトルを楽しんでいたように見えたのも事実だ。
結局のところ、私たちは三人とも、WIXOSSが好きなのだ。活動休止を決めた後も、私たちはそれぞれWIXOSSに関わる仕事をしている。この先、現役のDIVAとして参戦するかはともかく、何らかの形でWIXOSSに関わっていきたいというのが、三人の共通の思いであることは間違いない。
「こないだの大会を見てても、ミカは別にバトルが嫌いになったわけじゃないんでしょ? だったら現役復帰してもいいんじゃない?」
「バトルが好きだから、今はもう私たちの出る幕じゃないって言ってるのよ。『夢限少女』を目標にしていたら、私たちが辿り着けなかった『その先』まで行けないでしょ?」
『その先』とは、つまり『マスターピース』のことだ。ミカは私たちが諦めてしまったマスターピースの夢を、後輩のDIVAたちに託そうとしているのだ。
するとリエは、呆れたような顔で言った。
「結局、『マスターピース』への夢を一番諦めてないのがミカなんだよね~」
「なっ!」
「本当に諦めちゃったなら、WIXOSSにも関わらず別の道へ進めば良いのに。後輩をプロデュースしてるのも、『マスターピース』に届くDIVAを育てたいってことでしょ?」
恐らくリエの言ってることが正解だろう。ミカは苦い顔で黙ってしまった。
そんなミカを見て、茶化すような笑顔だったリエは不意に真面目な顔で言葉を続けた。
「でも、後輩を育てることと、後輩に自分の夢を託すのは、イコールじゃないよ。あの子たちにはあの子達の夢がある筈なんだから」
「……わかってるわよ」
いつになく真剣で強い口調のリエの言葉を、ミカも真剣に受け止めた。
これまでリエは、バトルの解説を務めながら現役のDIVAたちを間近で見てきていた。彼女にとって、ヒラナちゃんたち現役のDIVAは皆、可愛い後輩なのだ。
そんな彼女たちを、自分の夢を叶えるために利用するのは許さない。リエの言葉には、彼女の強い意志が感じられた。
私も同感だ。ヒラナちゃんたちがマスターピースに届きうるなら、私も是非見てみたいし、全力でそれを応援したい。でも、それはあくまで彼女たちの意志によってであるべきで、私たちが何らかの思惑を持って彼女たちにアドバイスという名で指針を与えることなどは、許されることではないと思う。
『マスターピース』は、私たち三人の夢。彼女たちの夢ではないのだから。
「……一度諦めてしまった私たちには、『マスターピース』について何も言う権利はないわ。その資格を、私たちは活動休止を決めたあの日に放棄したのよ」
重い口調でミカが呟いた。そう、今さら私たちには、現役のDIVAたちに対して何かを言う資格など無いのだ。
最初に「諦め」を口にしたのはミカだけど、『マスターピース』に未練があるのは明らかだったし、「諦めきれない」という思いでは私とリエも同じだった。
結局、今日もまた結論が出なさそうな雰囲気を、三人が共に感じ始めていた。
意見が出尽くし、少し長い沈黙が続く中――私はチラッと時計を確認すると、二人に話し始めた。
「三人とも、言いたいことは言って、それでも意見は変わらず、まとまらず。これはもう何回話し合っても結論は出ないと思うのよね」
「でしょうね」
「って、そんな他人事みたいに言わないでよ。私たち三人の問題なんだから」
ちょっとムッとしたリエに、私は言葉を続ける。
「三人の問題ではあるけれど、みんなが関心を持ってる問題なのも間違いないでしょ? そうなると、三人だけで決めていいものなのかなぁ、と思って」
「相変わらず、もったいつけた言い方ね。早く結論を言いなさいよ」
焦らされたミカもイライラし始めたので、私はご希望通りに結論となる「作戦」を打ち明けた。
「私たち『夢限少女』が復帰するべきかどうか、現役のみんなの意見を聞いてみることにしたの♪」
「はあああ!?!?!?」
ミカとリエは声と表情を揃えて驚いた。
「現役のみんなって、ヒラナとかタマゴとか!?」
「ええ。ミカの事務所の『Card Jockey』と『デウス・エクス・マキナ』にも声をかけてあるわ」
「はあ!? なに勝手に話を進めてるのよ!」
「だって、事前に言ったらミカは絶対反対するでしょ?」
「当たり前でしょ! 身の振り方を社員に聞く社長がどこにいるのよ!」
「でも結局自分で決められなかったんだから、仕方ないじゃない」
ミカは怒り心頭だったけど、リエは半ば諦めたように苦笑していた。
「あーそうそう、これこれ。アザエラはいつもこうだったよね~。サプライズ好きって言えば聞こえは良いけど、ビックリするようなことを勝手に決めて事後報告」
「三人だけの話し合いは、完全に行き詰まってたから。他の人の意見も聞いてみたいって思ったの。私たちの動向は、現役の彼女たちにとっても大きな問題だから」
「DIVAバトルのランクにも影響あるだろうし、あの子たちとしても完全に他人事ってわけでもないしね……で、どーせこの後ここにみんなが来ることになってるんでしょ?」
「さすがリエ。お見通しね」
「なっ! ここに来るの!?」
「あー、ミカは顔バレしてるから、本人を前に本音を言ってもらうのは難しいかも」
「そういう問題じゃないわよ! そこも問題だけど!」
「大丈夫よ。変装道具あるから」
「話を聞きなさいよ阿左美!!」
声を上げるミカはさておき、私は予め用意しておいたカツラやメガネなどの変装用アイテムと、店員用のエプロンを二人に差し出した。
「二人とも、新人のバイトってことにするから。これなら正体バレずに率直な意見が聞けるでしょ?」
「バ、バイト……この私が、バイト……」
「ははは……用意周到すぎてヒくわ……」
「さあ、そろそろ最初の子が来るから、二人とも準備して」
「も、もう来るの!?」
「こ、心の準備が……」
二人は諦めた様子で、いそいそと変装道具を身につけ始めた。
確かにリエが言うとおり、私はサプライズが大好きだけど、今回黙っていたのは二人を驚かせる事が目的ではなく、直前で拒否されるのを防ぐため。なので、ここまでは私の計画通り。
ここから先は、私にも予想が付かない。みんながどんな意見を持っているか、その意見で私たちの答えがまとまるのか。
どうなるにせよ、話を聞くことは無駄にはならないとは思ってる。それは、このお店で、今現在WIXOSSを楽しんでいる子たちを見続けてきた私の、確信に近い予想だ。
「にゃーっ! 店長さーん! にゃーが参上にゃーっ!」
元気よく最初にやってきたのは『Card Jockey』のLIONこと、猫澤奈々ちゃん。『Card Jockey』はミカの事務所に所属するDIVAチームなので、変装がバレないかと少しドキドキしたけれど、気づかなかったみたい。
でも、彼女に「バイトのおばちゃん」と呼ばれた瞬間のミカの殺気に満ちた表情は、当分忘れないと思う……。
それはさておき。
私はさっそくLIONちゃんに、「『夢限少女』の現役復帰について、どう思うか」を尋ねた。
彼女は難しそうな顔で、しばらく考え込んだ。
「う~ん……にゃーたちの場合、ミカPとのバトルなら事務所でいつでも出来るから、無理に現役復帰はしなくてもいいかもにゃ~」
リエは「なるほど」という顔で、ミカは表情を崩さずに聞いていた。
「……でも、引退はしないでほしいかにゃ」
「えっ……?」
思わずミカが聞き返した。
「ミカPのことはプロデューサーとして超リスペクトしてるけど、やっぱバトルしてる時が一番カッコイイから! あ、本人には絶対ナイショにゃ♪」
目の前で言われた本人は、珍しく照れていた。怖くて厳しいイメージのある彼女だけれど、実は可愛いところもあるのだ。
次にやって来たのは、『DIAGRAM』の三人。
LIONちゃんと同じ質問をしたところ、リーダーのムジカちゃんは呆れた様子だった。
「あら、まだ去就を決めてなかったんですの? まあ、悩むのも致し方ないですわね。現役復帰してしまったら、私たちともバトルをすることになりますし。そうなれば、『無賃乗車』の皆様もトップから陥落してしまいますものね♪」
……多分『無賃乗車』は『夢限少女』のことなんだろうけれど……私たちは苦笑いでスルーした。
「マドカは、復帰してほしくないかな……戻ってきたら、きっとみんな『夢限少女』の方ばっかり見ちゃうから……」
「……私も反対。これ以上ライバルを増やしたくない」
サンガちゃんの言う「ライバル」は、誰にとっての、何のライバルなのかはちょっと気になるけど。聞かないでおこう。
次に来たのは、『うちゅうのはじまり』のタマゴ博士と野場越超ことノヴァちゃん。
私からの質問に、二人は迷うことなく即答した。
「是非とも現役復帰してほしいね。『夢限少女』は、貴重な研究対象だから」
「研究? 何の研究??」
興味深そうにリエが尋ねると、タマゴ博士たちは授業でも始めるかのように蕩々と話し始めた。
「我々『うちゅうのはじまり』の目的は、WIXOSSを通じて『真理に辿り着く』ことだ。恐らく『夢限少女』は、我々の目指すものに最も近い存在だよ」
「彼女たちの強さは、現在の知識や法則、数式などでは解析できない。まさに未知なる存在、ダークマターそのものと言わざるを得ない……だからこそ、我らを惹きつける」
二人が求める『真理』が何なのか、私には分からなかった。
でも、WIXOSSを続ける先に『何か』があること、そしてそれを追い求めていることは分かる。私たち三人も、求めるモノが違うだけで、彼女たちと行動原理は同じだったから。
「……もし、その『真理』に辿り着けなかったら……とか、考えないの?」
ミカは真剣な顔で尋ねた。
でも、タマゴ博士とノヴァちゃんはここでも一切迷わず、笑顔で即答した。
「考えたこともないね。たとえ辿り着けなかったとしても、追い続けたことの全てが無駄になるわけじゃない」
「追い求め、問い続けることにこそ、その意味もあれば価値もある」
二人の言葉に、私はハッとさせられた。
ミカは相変わらず真剣な顔で、リエは黙って頷いていた。
年下の二人に、大事なことを教えられた気分だった。
『デウス・エクス・マキナ』のエクセル・水無月こと、エクスちゃんが来て、変装したミカの顔をジーッと覗き込んだ時は、さすがにバレるかな……と思ったけれど、なんとかギリギリでバレずに済んだ。
「一瞬ミカPに似てるおばちゃんだな~と思ったけど、うちのミカPはもうちょっと若いもんね。ごめんごめん」
褒められてるのか貶されてるのか分からず、ミカもリアクションに困っていた。
エクスちゃんにも同じ質問を投げかけた。陽気な彼女も、この時はバトル中のような「本気」の顔で答えた。
「正直、どっちでもいいかな。現役でも、引退でも、彼女たちが『ここ』にいることに、変わりはないから」
そう言って、彼女は自分の胸を指差した。
「私の『ここ』には、いつも『夢限少女』がいる。強くて、かっこよくて、美しいあの三人が。追いかける『目標』として、乗り越えるべき『壁』として。だから、現役復帰しようと、完全に引退しようと関係ない。彼女たちは、いつも『ここ』にいるから」
彼女の言葉を聞いて、ミカは黙って俯いてしまった。
表情が見えず、感情は読み取れなかったけれど、ミカの思いはなんとなくわかった。
照れくさいのか、嬉しいのか、その両方か。
来てもらった現役のDIVAたちの意見は、どれも個性的で、私たちの心を揺さぶるような素敵な言葉がいくつも飛び出していた。
まあ、中には苦笑いするしかないようなコメントもあったけれど。
『きゅるきゅる~ん☆』の三人は、予想通りというか、「らしい」というか……。
「『夢限少女』? いない方がいいに決まってるでしょ。みこみこたちじゃ、どーせ勝てないし。引き立て役はゴメンよ」
「いきなり辞めたと思ったら、急に戻ってきたり。構ってちゃんかっつーの」
「そんなに注目浴びたいなら、いっそセクシー路線に転向したらいいんじゃない?」
「やめてよー。みこみこたちみたいに可愛すぎるDIVAならともかく、おばさんDIVAのセクシー路線とかキモすぎてキモいわー」
当分この三人は出禁にしよう。
そして。
最後にやってきたのは、『No Limit』の三人だ。メンバーの一人で、ここのバイトをしてる昭乃ちゃんは、ミカたちと同じエプロン姿。急に年上のバイトが二人増えて驚いてたけど、正体は怪しまれてないみたいで一安心。
私は、他の子たちと同様に平和ちゃんたちにも同じ質問をした。
平和ちゃんの回答は、私の予想通り。リアクションは予想以上だった。
「賛成賛成大賛成! 絶対復帰するべきだよ! 今すぐにでも!!」
令ちゃんと昭乃ちゃんも、テンションは違ったけれど思いは平和ちゃんと同じだった。
「『WIXOSS DIVA ON STAGE』でのバトルを見ても、ブランクはまったく感じなかった。伝説の最強DIVAは、未だ健在。完全復活したら、間違いなくランクバトルのトップに立つでしょうね。対戦が楽しみだわ」
「わ、私はちょっと怖いけど……でも、強いDIVAが増えるのは、いいことだよね」
「うんうん! そのとーり! こないだのバトルも超楽しかったし、みんなチョー盛り上がってたし! 戻ってこない理由なくない?」
平和ちゃんは何度も頷いた後、思い出したように言葉を続けた。
「ってゆーか、『夢限少女』が活動休止した理由って、何だっけ?」
「えっと……アザエラさんが結婚するから、だったかな」
「いいえ、ミカエラさんがガブリエラさんの彼氏を奪ったからよ」
「え~、ミカエラさん最低~」
『違うわよ!!!!』
珍しく私たち三人が声を揃えた。揃ってしまった。平和ちゃんたちは意味が分からずキョトンとしてたので、私たちの正体はバレずに済んだけど、危なかった……。
ミカはちょっとムッとしつつ、取り繕うように話し始めた。
「活動休止や引退を決めるのは、それなりの事情や理由があるものよ」
「例えば? どんな理由?」
「それは…………例えば……限界を感じた、とか……」
少し逡巡して、ミカは言葉を選びながら答えた。例えばと言いつつ、本当の理由を。
それを聞いても平和ちゃんは納得しないかも――と思ったけれど、予想に反して「なるほど」と頷いた。
「……わかるなぁ。あたしも、そうだったし」
「エクスに負けた時?」
「うん、ボッコボコに負けた時」
嫌なことを思い出したように、平和ちゃんは一瞬辛そうに目を伏せた。
「何度やっても勝てなくて、負けても負けても許してくれなくて、もう限界って思って……あの時は、本当にWIXOSSやめようと思った……」
「平和ちゃん……」
昭乃ちゃんと令ちゃんも辛そうだった。
でも、平和ちゃんは元気に目を見開いた。
「だけど、やめたくなかった! 勝てなくても、何回負けても、あたしはWIXOSSが好きだから!」
「……好きなだけでは、超えられないものもあるのよ……それが、本当の限界だったら、諦めるしか……」
ミカの絞り出すような言葉を打ち消すように、平和ちゃんは晴れやかな顔で答えた。
「諦めなければいいんだよ!」
「え……?」
「勝てなくても、超えられなくても、諦めなければチャンスはある! 諦めなければ、限界はないんだよ!」
驚いた様子でその言葉を聞くミカとリエ。
令ちゃんと昭乃ちゃんは笑顔だ。
「出たわね、平和の決め台詞」
「私たち『No Limit』は、ずっとこの言葉に支えられてきたよね。『ミーツアーツ』の時も、『WIXOSS DIVA ON STAGE』の時も」
「きっと、これから先も!」
迷いのない眼差しで力強い言葉を放つ三人。
その眩しい笑顔を見て、私はようやく答えを決めた。
WIXOSSランドを一望できる高台。そこは現役の頃から私たち『夢限少女』の集まる場所になっていた。
平和ちゃんたちから話を聞いた、その日の夜。私たち三人は久しぶりにそこに集まった。
『夢限少女』が正式に復帰するか、活動休止を続けるか、その結論が、ようやく出たから。
本当は今日、この場で最後の話し合いをするつもりだった。でも、現役のDIVAたちの意見を聞いて、三人の答えはあっさりと一つにまとまってしまったのだ。
あんなに悩んで、あんなに話し合って、それでも決まらなかったのに……と、ちょっと情けなくも思ったけれど、答えを決めた三人の気持ちは晴れやかだった。
「よく考えたら無茶苦茶な屁理屈なんだけど、仕方ないよね~。納得しちゃったんだから」
リエ=ガブリエラは自虐的な笑みを浮かべていた。
ミカ=ミカエラは溜息をつきながら、それでも納得した様子。
「大変なのはここからよ。一度諦めた者たちは、果たして『マスターピース』に届くのか……」
「大事なのは、届くか、届かないかじゃない。届くと信じて、諦めないこと。でしょ?」
私=アザエラの言葉に、ガブリエラは笑顔で、ミカエラは大きな溜息で答えた。
「『諦めなければ、限界はない』、か……」
「だから、『No Limit』」
「そう。彼女たちは、『無限少女』。限界を超えて、どこまでも高く、遠く飛んでいく……」
「負けられないわね、私たちは、『夢限少女』なのだから」
この翌日、私たち『夢限少女』は正式に現役復帰を発表した。
夢と願いが交差する場所――WIXOSSランドで、夢を再び追いかけるために。
もう二度と、諦めない。これは、他の誰のものでもない、私の、私たち三人の『夢』だから。
WIXOSS DIVA MEETS ARTS ~完~
