ぷちリカちゃんは、連れていきたくなる。作り手の想定を超えた理由
「リカちゃん」といえば、家の中で遊ぶ人形というイメージを持つ人が多いだろう。
そんなリカちゃんが手軽に持ち運びできるサイズ・フォルムになった「ぷちリカちゃん」と聞いて、昨今のじゃら付け文化、ぬい活文化にターゲットを定めた商品だとイメージする人も多いかもしれない。
実際にユーザーが持ち歩きたくなるような細部までこだわった設計が特長だが、開発チームが期待していた以上に、カフェや旅行先、日々のお出かけなど、まるで自分の相棒として連れ歩くという楽しみ方が数多く見られたという。
なぜ多くの人の心をつかみ、日常の中で愛される存在になっているのか、ぷちリカちゃんの開発・マーケティングを担当しているRRさんに話を聞いた。

ぷちリカちゃんを作った人
RRさん
新卒でタカラトミーに入社し、はじめの1年は営業を担当。その後ファッションエンターテイメント事業部で女児向けのクラフトホビーなどの企画開発に携わる。子どもの頃はリカちゃんを他の人形やぬいぐるみと一緒に遊んだ程度で、「知ってはいるが、大人になってからは手に取っていない」という距離感が出発点だった。リカちゃんの企画開発を約3年務め、今年2月にマーケティング部門へ異動。ぷちリカちゃんは立ち上げから関わっている。
リカちゃんの担当になって自分でもびっくりしました

RRさんは幼少の頃リカちゃんと遊んだ記憶はあるものの、配属当初はそれほど強い思い入れはなかったという。
RR
小学校1年生くらいまでは、リカちゃんを他のぬいぐるみや人形と一緒に遊んでいました。リカちゃんハウスも持っていましたね。
でも、リカちゃんがすごく好きというよりかは、たくさんあるおもちゃの一つという感覚でした。
その後、近所の子に譲り、しばらくリカちゃんに触れる機会はありませんでした。
あくまで小さな頃に遊んだおもちゃという位置付けだったため、タカラトミーへの入社後に仕事で担当することになったときは戸惑いがあった。
当時やりたかったこととのギャップがあったのに加え、RRさんもリカちゃんに対して、子どもの頃の記憶のままのイメージを持っていた。
RR
リカちゃんの担当になるのを聞いた時は、"私があのリカちゃんの担当?"と正直びっくりしました...。
当時の私にとってのリカちゃんは"子どもの頃に遊んでいたおもちゃ"で記憶が止まっていました。
同世代の子に聞いても子どもの頃に遊んで以来は遊んでない、という感じでしたし、リカちゃんがどんなブランドなのか正直まだよく分かっていませんでした。
リカちゃんをプロデュースする仕事であることに気づいてリカちゃんが大好きに

そんなRRさんがリカちゃんを好きになったのは、ある気付きがあったからだという。気づけばリカちゃんと向き合う中でRRさん自身のときめきが大きくなっていった。
RR
リカちゃんの開発やマーケティングの仕事をやっているうちに、"これってリカちゃんをプロデュースするお仕事なんだ"と気づいたのが大きかったと思います。
どんなお洋服を着せたら可愛くなるかな、どんなメイクにしたらこのお洋服にあうだろうなとか、まさに娘や妹をお世話する感覚というか。
リカちゃんは歴史が長い分、どうしても昔からある人形のイメージがある人もいると思うんですが、同世代の流行ファッションを取り入れたりして、今の時代に合わせてアップデートしていくのも楽しいです。
やっぱり自分がプロデュースして可愛くなったら嬉しいじゃないですか。私にとって可愛い=ときめきなので、リカちゃんが可愛くなればなるほど私のときめきも大きくなるんです。
そんなRRさんのときめきを詰め込んだのがぷちリカちゃんだ。
これまでもリカちゃんを小さくする案自体は出たことがあるものの、昨今のじゃら付けやぬい活文化の流行が企画の実現を後押ししたという。
RR
"ときめきを日常に持ち出せる存在"として、ぷちリカちゃんを開発しました。
リカちゃんはそのままだと連れて歩くのにちょっと大きいですし、取り出して撮影するのも周りの目が気になる方もいるかもしれません。
だから、お人形としてではなく、雑貨やアクセサリーをイメージして作りました。リカちゃんの可愛さだけを凝縮した、そんな存在がぷちリカちゃんですね。
可愛さのバランスを探るために試した顔パターンは70、80通り

とはいえ、既存のリカちゃんのデザインをただ小さくすれば可愛くなるというものでもないだろう。既存のデザインの中でどこをデフォルメするか、どこは必ず残すかという判断も重要だ。
ぷちリカちゃんの造形の最終的な判断軸は、"RRさんが感じる可愛いバランス"に委ねられた。
RR
まず大きさに関しては、ユーザーアンケートをとった結果このサイズ感のリカちゃんを持ち歩きたいという声が一番多かったのが決め手となりました。
お顔のデザインが難しくて、リカちゃんの顔をそのまま載せるとバランスが悪くなりますし、デフォルメしすぎると可愛くなくなります。
そこで、まつ毛の長さをミリ単位で短くしたり、目の幅をミリ単位で近づけたり離したりしました。
しかし、可愛さに明確な正解が示されているわけではない。
RR
他にも瞳の中にある星(ハイライト)の数を減らすにあたって、2つがいいのか3つがいいのか等を試しました。
試行錯誤する中でも、リカちゃんのアイデンティティが変わらないように気をつけた部分もあります。
例えば、瞳は絶対に左向きにする。そんなこんなで、お顔のパターンを70、80通りは試しましたが、やっぱりやっているうちに何が正しいかわからなくなっていくんですよね。
だから、同じチームのみんなにどっちが可愛いかとか、バランス的にどう思うかはたくさんヒアリングをしました。
私一人でやっていたのではなく、いろんな人を巻き込みながら進められたのは大きかったです。
それでも、最後は誰かが決めなければならない。
RR
ただ、最終的に私の上司からの、"この商品は二、三十代の大人の方がターゲットだし、まさにその層であるあなたが本当に可愛いと思うバランス感が一番だよ"という言葉が後押しになって、自信を持ってお顔を決めることができました。
また、ぷちリカちゃんはサンリオやナルミヤなど他社キャラクターとのコラボを中心として展開している。
他社IPを扱う難しさはないのだろうか。
RR
そのキャラクターらしさが一目見ただけでしっかり出るように意識しながらデザインしていきました。
キティちゃんならこの耳の感じとリボンの感じかなとか、遠くから見てこれはシナモンだとわかるようにとか。
私も小さい頃、ナルミヤさんは文房具を集めるくらい大好きだったんです。
私のようなコラボ先のファンの皆さんがちゃんと可愛いと感じて、"これならぷちリカちゃんを買ってみようかな"と思ってもらえるものにするのを意識しながら作っています。
人型であることでより友達感や相棒感を感じてもらえる

ぷちリカちゃんを実際に発売すると、他のキャラクター商品との反応の違いを明確に感じる面があるという。
それは他商品にはない人型であること、手足が可動できることが重要な要因としてあった。
RR
世の中で流行している他のキャラクター商品との差別化としては、人型であることでより友達感や相棒感が強いということ。
それこそ、会社のデスクに置いたりしても良いと思うんですよね。辛いことがあったときに心の拠り所になってくれそうじゃないですか。
また、ぷちリカちゃんは手をバンザイさせたり、足を動かしてお座りさせたりすることができるので、カフェ等で撮影する際のバリエーションも増えますし、"ぷちリカちゃんと一緒に楽しんでいる"を実感できます。
お客様からは"ぷちリカちゃんに靴を履かせることにときめきを感じている"という声も聞いて、そこまでは想像もしていなかったことだったので、本当に皆さん自分に近しい存在としてお世話することも楽しんでいただいているなと嬉しく感じます。
靴を履かせる行為は小さい子供のお世話をする感覚を思い起こさせる。
つまり、ぷちリカちゃんという人形から、まるで生きているような"この子"に転換をしているユーザーが多いということなのだろう。
持っていくのではなく、この子だから連れて行きたくなるのだ。
ライブ会場で一緒に撮影など、想像を超えた楽しみ方をしてくれているのが嬉しい

RRさんによる設計を超えて、ユーザーによるぷちリカちゃんとの楽しみ方は幅を広げ続けている。
いわば、ときめきが設計の外に溢れ出しているような状況が生まれているのだ。
RR
"え、そんな楽しみ方をしてくれているんだ"と驚かされることばかりで。
例えばぷちリカちゃんをバック等にじゃら付けすることを想定して、頭の後ろにループは設けていましたが、あえてストラップはつけずに、自分の好きなボールチェーン等でカスタマイズできるようにはしていました。
ただ、実際には、ストラップどころか、生地から自作の服を作っているという方もいらっしゃって、自分だけのカスタマイズを楽しむというスタイルが定着していると感じます。
さらにこう続ける。
RR
撮影シチュエーションで一番驚いたのがライブ会場での撮影です。
"このぷちリカちゃんの顔がアイドルの○○ちゃんに似ている"と感じた方が、ライブ会場に連れて行って撮影したり、アーティストのアクリルスタンドと並べてとってくれたりとか、特別な時間をぷちリカちゃんと共有して楽しんでくれています。
ぷちリカちゃんは、開けるまでどのキャラクターが出るかわからないミステリーボックス形式で販売されている。
発売後、SNSには購入したユーザーから多くの感想が寄せられたが、その内容はRRさんにとっても印象的なものだった。
RR
"何が出ても可愛い"と言っていただけたのが、何よりうれしかったですね。
もちろん狙っていたキャラクターがある方もいると思うんですが、それでも"この子が出てくれてよかった"と受け止めてもらえて。
ミステリーボックスにしたことが、集めたくなるきっかけの一つになったのかなと思います。1個買うと、次はこの子も欲しいなって。
選べないからこそ、思いがけない出会いが生まれる。それは親子の間でも、ちょっとした事件を起こしているようだ。
RR
"娘はキティちゃんが欲しいと言っていたんですが、私が何が出るかわからないまま買ったらキティちゃんが出て。可愛いから、これは娘に渡したくない"なんて話も聞きました。
親子で取り合いになる、というのは、こちらもびっくりしましたね。
作り手が設計できるのはユーザーがときめく入口までだった。
そこからさらにユーザーが自分なりのときめきをどう"この子"に反映していくのか、その自由度がとても高いのがぷちリカちゃんの魅力なのかもしれない。
米国展開も始まり、世界中のユーザーがぷちリカちゃんを連れ出して、毎日の生活にときめきをプラスしてくれることを願うばかりだ。