夢限少女杯2024 カバレージ2回戦
Brandon Lee選手 VS hyakko選手
文:てらたか 写真:からばこ
カバレージ席に向かう際、そしてカバレージ席に到着した時。球琪湯米選手とBrandon Lee選手というベスト8にいる2名の招待選手が、5年前に開催中止となった「WIXOSS WORLD CHAMPIONSHIP SCHOOL WARS」限定配布のスリーブを使用していることにふと気付いた。
のちにスタッフに確認したところ、今回海外からプレイヤーを招待するにあたり、特に日本語版のカードが販売されていない地域のプレイヤーに対しては提出デッキリストどおりのカードが提供されたとのこと。このスリーブは、そのデッキ提供の際に入れられていたスリーブなのだそうだ。
考えてみれば、当時の情勢の中配布されたスリーブを海外の選手が所持している可能性は極端に低い。それを使用している理由としては納得である。
が、それが表すことが何かといえば。
彼ら招待選手たちがいずれも、日本語版を準備できない、あるいは準備しにくい環境で懸命に練習を積み重ねて来た証左に他ならない。
そのうえ、2024年7月に開催された「DIVA GRANDPRIX Las Vegas」などの結果から見てわかるとおり、日本語版とそれ以外とのカードプールには大きな開きがある。
カードプールの差、言語によるハンディキャップ。そんな障壁をものともせず、セレクター達は情熱と共にここまで勝ち進んできた。
上述「DIVA GRANDPRIX Las Vegas」優勝者であるBrandon Lee選手のデッキリストは、日本でも過去に流行していた《不穏☆FU☆ON!》型【ディソナナナシ】と遜色ない完成度を誇っている。
強いデッキに辿り着く情報収集能力、あるいは組み上げる構築力。グランプリの優勝まで辿り着くプレイスキル。勝つためのいくつもの条件を満たしているからこそ、彼は狭き門を通り抜けここまでたどり着いているのだ。
負ける気なんて微塵もない。カバレージ卓に座る彼の深い呼吸から、所作ひとつひとつから、ぎらつく勝利への渇望がちらちらと顔を覗かせていた。
しかし、貪欲な勝利への渇望という点では、昨年度夢限少女杯優勝者である対面のhyakko選手も劣らないだろう。
「人事を尽くして天命を待つ」という言葉が夢限少女杯の会場で最も似合う男は、間違いなく彼だ。
高い精度で夢限少女杯のメタゲームを見極めるため、あらゆる情報網を活用して参加者の使用デッキを絞り込む。
デッキパワーの高いデッキを常に選択しつつ、昨年度夢限少女杯で見せた【防衛派LION】の《カーニバル -罪-》や《電音部 鳳凰火凛》のように、デッキの弱点をうまく補完できるカードで柔軟性を確保する。
前回は、そうやって夢限少女杯を優勝した。そして今回も、そうやってすべてのことに対する準備をしてきたのであろう。
そんな彼の胸元に、唯一この場を和ませる空気感の物が。最後の天運を呼び寄せるため、「ライフバーストいーーーーーーっぱいでますように!」と書かれた絵馬がぶら下がっていた。
カバレージの執筆が開始されたころにはすでに引き直し(マリガン)まで進めている手際の良さ。Brandon Lee選手が先手で4枚マリガン、hyakko選手が後手で3枚マリガン。Brandon Lee選手の深呼吸、hyakko選手の腕組み。
試合開始のコールはいつだ、今か、今か。待ち続ける2人の元に、ようやく試合開始の宣言が届いた。
Brandon Lee選手(花代) vs hyakko選手(緑子)
先手1ターン目。
センタールリグの「花代」を開いたBrandon Lee選手は、《羅輝石 ドラゴアゲート》をエナチャージしてグロウするが早いか、流れるようにルリグデッキから《グロウ・エンハンス》を使用。《羅石 シンシャ》で1枚エナチャージ、《羅闘石 アメジスト》で最低限シグニゾーンを埋めターンをhyakko選手に渡す。
そんな彼の気風の良さに「花代」も調子を良くしたか。「緑子」のhyakko選手が《幻闘獣 ミャオ》を使用しながらアタックフェイズに入ると、Brandon Lee選手1枚目のライフからはすぐ《羅輝石 ヴォルカノ》が飛び出した。
《グロウ・エンハンス》のデメリットである《サーバント #》の確保率が低いという問題もなんのその、しっかりガードも行ない、彼は6枚のライフを保持して先手2ターン目へと突入する。
勢いそのまま、彼は《グロウ・エンハンス》の効果で1枚ドローすると《羅闘石 ヒスイ》を場に追加。アーツを温存した状態で3点要求をするも、hyakko選手のライフからはこちらも防御となる《翠美姫 ムンクシャウト》がバーストした。
【宝石花代】にとって、追加打点2枚で致死圏内に入れるライフ4枚と入れないライフ5枚の間には明確な壁がある。
エンハンスアーツを1ターン目に使用する必要はないと判断したhyakko選手の手札には、当然《サーバント #》。Brandon Lee選手が勢いに乗っていたように見えた展開も、このライフバースト1枚ずつの応酬でライフ差6対5の仕切り直しだ。
hyakko選手はエナチャージからのグロウ後、少し考えるとエンハンス系のアーツより先に《緩絃朗笛》の使用を宣言した。
《幻闘獣 ベイア》を場に出し、ライフバーストと元々手札にあった《幻獣 ハムスター》を合わせてこれで3点要求はばっちり。
バーストの期待値は十分とばかりにBrandon Lee選手はアーツ未使用で応答するも、2度目の緑子からのアプローチに対してはライフバーストも《サーバント #》もなく、これでライフは2対5。
花代のゲームターン数と序盤の脆さから考えればよく起きる状況ではあるが、“よく起きる”と“実際に起きてほしい”は決してイコールではない。とりわけ、赤シグニが入りやすく、その影響で赤のアーツが入りやすい「緑子」が相手ならば、危険領域のライフに飛び込むなんて後であればあるほどいい。
危険域の自分のライフ枚数と、まだ安全圏を保っている相手のライフ枚数。Brandon Lee選手の3ターン目に課せられた使命は、少なくとも相手のライフを致死圏内まで持ち込むこと、その上で次のターンに繋ぐ準備をすることだ。
ただ、【宝石花代】は《不敗炎話》と打撃力の高さのおかげで、その両立を現実的なラインで達成できるデッキだった。
Brandon Lee選手はまず相棒を《閃花繚乱 花代・参》にグロウさせると、《玉石混煌》で1面を除去しながら《羅闘石 アメジスト》を2枚回収。さらに《竜花相搏》を使用すると、ライフクラッシュは宣言せず、自身のライフを3枚に伸ばす。
続けて《花代・参》のアンビションを宣言しさらに4枚ドローしたら、《羅輝石 ドラゴアゲート》《羅闘石 アメジスト》《羅石 チェリークォーツ》の順番で場に並べてゆく。
そして2点要求でアタックフェイズ、アンビションで手札が全て膨大なエナに変換される――という状況になったところで、さらにこのターン3枚目の使用アーツとなる《炎官鳥》をルリグデッキから取り出した。
彼の残りライフが3枚という状況が、絶妙だった。
相手が「緑子」でなければ、もしくはライフがもう少し多く残っているなら《炎官鳥》とライフで1ターンを耐え凌ぐことも考えただろう。が、こと緑子にここまでライフを削られた状態では、《炎官鳥》が防御として機能する可能性はほぼない。
だから、彼は冷静に損切りしたのだ。《羅石 チェリークォーツ》でせめて1エナでも奪っておきつつ、自身のエナを最も大きく確保するために。
1面除去ライフバーストの返しが1面除去ライフバーストならば、ノーバーストの返しはノーバースト。hyakko選手のライフが、まずシグニによって2枚まで削られる。
hyakko選手の前ターンのわずかな逡巡を見逃さなかったか、それとも単純にエナを節約したかったか。Brandon Lee選手が自動効果を使わず勇気のルリグアタックを決行すると、これがクリティカルヒットしてhyakko選手のライフは1枚まで落ち込んだ。
そして、後攻3ターン目。
ここまではゆっくりしていた、hyakko選手。そんな彼の事前研究の結論が、全貌を明らかにする。
自身のルリグをレベル3に乗せた彼は、まず《シーク・エンハンス》を使用し、見えた8枚の情報と盤面情報をしっかりと照らし合わせて回収カードを決める。
続けて見えているライフバーストの枚数を確認すると、前ターンのお返しとばかりに《竜花相搏》を使用。Brandon Lee選手がライフ追加を、hyakko選手はライフクラッシュを宣言することで、まさにお互いの《竜花相搏》は”相搏つ”形で打ち消しあう結果となった。
《讃型 緑姫》のゲーム1効果であるワナが宣言されると、hyakko選手の手札には《幻獣神 オサコ》《幻獣神 キメラ》《幻獣 ハムスター》が、BrandonLee選手の手札には《羅石 シンシャ》3枚がエナから加えられる。
最後に《幻獣神 キメラ》《幻獣 ハムスター》と《幻獣神 ヤマアラシ》が盤面に並べられ、《幻獣神 キメラ》の【ランサー】付与効果が起動したのち、《全力疾走》で全面にパワー+5000が付いてアタックフェイズに突入した。
《讃型 緑姫》が《幻獣神 ヤマアラシ》にアタック時効果の除去を付与。《幻獣神 ヤマアラシ》がランサーとなった《幻獣神 キメラ》に追加ライフクラッシュを付与。これで、シグニだけで4点の盤面となる。
全面のパワーが9000以上、そしてワナによってBrandon Lee選手の手札は3枚。
《炎官鳥》を防御として撃てない、そんなBrandon Lee選手の推測は見事に当たっていた。当たっていたが――それを見越したとて、どうしようもない盤面をhyakko選手は押し付けたのだ。
前ターンにアンビションまで使っていて《サーバント #》を持っていないBrandon Lee選手は、ライフ2枚に対して襲い掛かる合わせて5点の要求に《不敗炎話》で対応する以外の道が残されていない。
ライフと、1ターン確保券の《不敗炎話》が消費され、間違いなくBrandon Lee選手のラストターンが訪れる。
訪れるが、そのターンの行く末すらも、hyakko選手の掌の上にあった。
前のターンにはコンボパーツの回収として働いた《讃型 緑姫》のワナが、Brandon Lee選手のターンには最強の妨害として機能するのである。
《グロウ・エンハンス》を1ターン目に撃ったBrandon Lee選手のルリグの最終形態は、当然《閃華繚乱 花代・肆》だ。このルリグは本来、《閃花繚乱 花代・参》のアンビションによって前のターンに手札をすっからかんにしておくことで、出現時効果で一気にダメージソースを引き込んで最後のターンを駆け抜けるという構造で戦う。
しかし、すっからかんになっているべき手札には今、3枚ものカードがあった。ダメージソースでもなんでもない、小さく可愛い3枚の《羅石 シンシャ》が。
「ライフ2に対して5点要求するから絶対に《不敗炎話》を撃ってね」、「《全力疾走》で全体のパワーを上げておくから、がんばって乗り越えてね」、「《讃型 緑姫》のワナで無駄な手札をたくさんあげるから《閃華繚乱 花代・肆》の効果では1枚も追加ドローができないよ、《グロウ・エンハンス》込み3枚のドローだけで3面分のダメージソースを準備してね」。Brandon Lee選手が全ての勝利条件を達成しようとしたその返しのターン、hyakko選手は課題を対面へと叩き付けたのだ。あまりにも達成困難な、いくつもの課題を。
hyakko選手のルリグデッキには、まだ2枚のアーツが残っているし、ワナと《不敗炎話》による大きなエナの消費のせいでBrandon Lee選手は満足なリソースも準備しきれない。
こうなってしまうと、八方塞がり。
点数要求盤面が形成しきれないBrandon Lee選手のターンを悠々と凌ぎ、hyakko選手がとどめを刺しきってみせた。
勝者:hyakko選手
1回目の夢限少女杯でベスト4を取り、2回目では優勝、そして今回もこれでベスト4以上は確定。
圧倒的な研究量に裏打ちされた構築と狂いのないプレイングを武器に、hyakko選手は快進撃を続ける。視界は良好、連覇の夢ももう夢ではない。
そんな彼と力強く握手をして、Brandon Lee選手は歩を進めるさっきまでの好敵手を快活に送り出した。
決勝トーナメント、ベスト8で敗退。悔しいながらも、そこには確かな爪痕が残る。
カメラに、ここまでを戦い抜いた戦士としての勇姿を見せつけ、Brandon Lee選手もまた去っていった。








