夢限少女杯2024 カバレージ1回戦
LUKE選手 VS サトー選手
文:てらたか 写真:からばこ
“コロナ禍”が対面ゲームの進歩を粉々に粉砕してから、もうどれだけ経っただろう?
忘れもしない。当時はキーセレクションにおいて、5周年を祝うキーカードである《5th Anniv.Heroines》をよく見かけた時期だったはずだ。トレーディングカードゲームはもちろん対面が前提のゲームであるため、WIXOSSも大打撃を受けた。
オールスターとキーセレクション、2つのレギュレーションで盛大に開催されるはずだった「WIXOSS WORLD CHAMPIONSHIP SCHOOL WARS」は中止となり、新フォーマットであるディーヴァセレクションもスタート直後はろくに大型大会が開かれないまま。ゲームそのものの規模感が大きく縮小したのと比例するように、セレクターの中にあったはずの迸る情熱もひとつ、またひとつと消えていった。
このまま、WIXOSSも終わってしまうのかもしれない。そんな不安を抱きながら過ごした人も少なくないはずだ。
けれど、さあ今、WIXOSSはどうだろう!
今回の夢限少女杯の会場である秋葉原UDXは、ちょうど5年前に「WIXOSS WORLD CHAMPIONSHIP SCHOOL WARS」が開催される予定だった場所でもある。10周年を迎えた今会場を見渡せば、当時と変わらない熱量がそこにある。
三度目の開催となる今回の夢限少女杯は、つまるところ、この活気あふれる10周年目における”最強”を決めるために開かれた、WIXOSSの集大成とさえいえる大会というわけだ。
勝ちたい気持ちが、ぴりぴりした緊張が、どの選手からも溢れていた。
さて、そんな今回の大会だが。
注目アーキタイプに、1つ異質な存在があった――【白青夢限】だ。
センタールリグである《夢限 -Q-》《夢限 -A-》が登場したのは「REUNION DIVA」の発売した2022年10月。そこから今年度までの間には、ディソナの登場があり、解放派・闘争派・防衛派の争いがあり、そしてアーツの登場もあった。さまざまなカードパワーの向上を経た現代の環境で2年半前のルリグが注目されているとくれば、その“異質”さは語るべくもないだろう。
このメタゲームの立役者こそがディーヴァグランプリ2024winterの優勝者であり、そして夢限少女杯でもこの決勝トーナメント対戦カバレージ卓まで駒を進めたサトー選手である。
2月に開催されたディーヴァグランプリ2024winter。まだ記憶に新しいこの大会を彼が【白青夢限】で勝ち抜いたことによって、このアーキタイプはあっという間に大注目のデッキとなった。
1ヶ月前にグランプリ覇者という称号を、そしてその後のメタゲームの変遷によって結果的にトップメタデッキの開発者という称号を得た彼は、同じく「夢限」と共にしっかりこの夢限少女杯予選スイスラウンドを突破していた。
ここまで来れば、夢限少女の称号まで後わずか。ひときわ気合が入っていることは間違いないだろう。
そんなサトー選手の対面に座るのは、海外からの招待プレイヤー、台中代表のLUKE選手だ。
海外のWIXOSS選手は、実はそれほど珍しいわけではない。
昨年の時点でも海外でディーヴァグランプリは開催されていたし、遡ること10年前、2015年に開催された最初の世界大会である「ウィクロスカップ2015」では海外選手であるHAYAMI選手が3位入賞を果たしている。
しかし、これもコロナ禍で規模が一度縮小した影響か、ディーヴァセレクションになって以降に始まった夢限少女杯に海外プレイヤーが招待されていなかったのもまた事実。今年は年度最強の称号が「日本最強」ではなく「世界最強」となる、逆に言えば本場の日本から栄冠を持ち去ることができる、久方ぶりのチャンスなのだ。
LUKE選手は「花代」と共に2月の海外グランプリを勝ち抜き、そして今も「花代」と共に「世界最強」に届きうる場所に座っている。
互いが異なる場所での2月の優勝者、互いが権利獲得時と変わらない「相棒」と共に駆け上がってきた夢限少女杯決勝トーナメント。似通った戦績を持つ彼らは、だけれども、今からの対戦で間違いなく異なる最終戦績に至る結末となる。
まずはひとつでも、目の前の相手より上にゆく。そして、それを繰り返していくことでしか、栄光を掴むことはできない。
コミュニケーションエラーのないように、ミスがないように。LUKE選手が2枚、サトー選手が4枚の引き直し(マリガン)を行なったのち、丁寧に丁寧にライフが並べられていく。
LUKE選手が、ひとつの間違いもないことを確認するべくライフの枚数を確認し。サトー選手が、ひとつ大きく息を吸い込み。
開始の合図と共に、彼らの相棒がオープンされた。
LUKE選手(花代)vsサトー選手(夢限)
エナチャージ後、アーツを何も撃たずに《羅石 アクロアイト》《小装 エケザクス》を場に並べる最小の動きで先手1ターン目を終えたLUKE選手に対し、サトー選手は後手からさっそく《バカンス・チャージング》を使用。続けて《リゲット・バイブル》で手札を補充し、《小装 ロングスピア》《蒼魔 マノミン》でリソースを奪い取りに行く順調な滑り出しをするという流れで、試合は幕を開けた。
《轟炎 花代・爾転》《閃花繚乱 花代・参》《閃華繚乱 花代・肆》、どれも3~5ターンでの決着をメインとするといえど初見ではどういう型が飛んでくるかわからない花代。ブルアカ軸に白青のリソース破壊軸とグロウコストが無色でさまざまな構築のバリエーションを持ちつつ、どれも最低5ターン目まで到達しないと本領を発揮しない夢限。どちらも構築の幅は広いが、デッキの思想は対極に位置していると言って差し支えない。
ゲームターンの長期化はそれほど得策ではない。そう判断したか、LUKE選手は《蒼魔 マノミン》の手札破壊の際、2枚あった《サーバント #》のうち1枚を迷わず捨てる。
LUKE選手がリソースの消滅前に攻め切れるか、サトー選手がリソースを絞り取って花代の勝ちの目を潰すか。
自分の勝ち筋を押し付け合うこのゲームの天秤は、後手1ターン目のサトー選手がシグニをすべてダウンさせ切った状態で《羅輝石 ドラゴアゲート》のライフバーストを踏み、先手2ターン目のLUKE選手の点数要求が《羅闘石 アメジスト》1枚だけが絡んだ2点要求のみに終わったことで、ひとまず少しだけサトー選手側に傾いたようだ。
サトー選手の《シャイニング・ソード》と《スリップ・ストップ》でLUKE選手のシグニが止まり、一応の凍結ケアのためかルリグアタックも行なわないLUKE選手。残るライフは7枚、これだけなら夢限側からすれば理想の展開といえる。
ただ、LUKE選手のすべてのアーツが未だ裏向きでルリグデッキに眠っているという点が、今しがたひっそりと出て手札破壊対策にカードを一枚伏せていった《中罠 あや//メモリア》やついさっき見えた《小装 エケザクス》などの一般的な花代には見られないカードが大量に出てきているという事実が、強烈な威圧感を放っていた。
多少不気味ながらも、サトー選手のやることは変わらない。
彼は《ドロー・エンハンス》で手札を補給すると、さらなるリソース破壊のために追加の《小装 ロングスピア》を送り出し、丁寧にカード効果の解決順を宣言しながらアタックフェイズの処理を行なってゆく。
バーストケアのためシグニをすべてダウンさせてから《シャイニング・ソード》で開いた面で1点を与えると、ライフからめくれるのは《羅輝石 ヴォルカノ》。普通なら強力なライフバーストも、サトー選手は全面ダウン状態でライフをクラッシュし続けることでケアしきってみせる。
《中罠 あや//メモリア》で伏せられたカードは《サーバント #》ではなく、これでサトー選手は3点分ダメージレースで先行することに成功した。
とはいえLUKE選手からすれば、その1枚ドローでも今回の3ターン目は十分だったようだ。
自らの相棒を《閃花繚乱 花代・参》まで成長させた彼は、今の今まで取っておいたルリグデッキからようやく1枚目のアーツ《玉石混煌》を放つ。彼の手元に《羅闘輝石 アダマスフィア》と《羅輝石 ドラゴアゲート》もう1枚が加わると、彼はその《羅闘輝石 アダマスフィア》に加え《中装 ショクダイキリ》を場へと送り出した。
対夢限に有力なリソース獲得手段となれる《羅輝石 ドラゴアゲート》を場に出す選択肢を取らなかったことから、LUKE選手のデッキにおおよそエンハンス系のアーツは入っておらず、強力なアーツに枠を大きく割いた構築であろうことが伺える。《中装 ショクダイキリ》は、そんな構築において低リソースでダメージを重ねていくための大事なパーツのひとつなのだろう。
ただし、こと現環境の【白青夢限】が相手だと、《シャイニング・クロック》の標的になってしまうことは避けられなかった。
前のターンにしっかりリコレクトは達成されており、《中装 ショクダイキリ》によって付与された自動効果はこれによって失われる。
サトー選手はまんまと1エナでの2点防御を成立させ、ルリグアタックにガード不可が付与されて2点が通っても、ライフはまだ1枚先行する理想的な展開だ。
そして、《閃花繚乱 花代・参》相手に大量に持っていても意味がないとばかりにサトー選手の手札から《サーバント #》がエナチャージされると、もちろん彼のルリグデッキから姿を表すのは《夢限 -Q-》。
ここからおそらく、環境でよく見る【白青夢限】のゆっくりしたゲームメイクが始まるのだろう――それに備えて「【白青夢限】の耐性盤面についての説明」とタイピングしていたライターの前で、事態は大きく動く。
彼の手札から《聖天 アークアテナ》が――彼が1ヶ月前に使用したデッキには入っていなかった、汎用的なダメージソースが繰り出されたのだ!
ゲームの趨勢が急変する。
《夢限 -Q-》が裏返るまで、夢限はルリグアタック1点の繰り返し程度でしか相手のライフを詰めていく術を持っていない。その前提をひっくり返す渾身の1枚に、LUKE選手のライフはなすすべなく持っていかれる。
除去を終えた時点で仕事を果たしたと言わんばかりに《聖天 アークアテナ》はリムーブされ、《聖天姫 エクシア》《聖魔姫 アリオーシュ》によって場が補強され、LUKE選手は本来の想定よりひとつライフが少ないであろう状態でターンを始めることとなった。
相手にダメージソースがあると判明した以上、残りライフ2という数は十分デッドラインになり得る。
それでも。LUKE選手は小考ののち、ルリグデッキにはまだ手をかけず、《閃花繚乱 花代・参》のアンビションのみで場を作りに行く選択をした。
最低値のリソース消費で点数を通すために再び役立ったのが《中装 ショクダイキリ》だ。アタック時効果による点数要求をすることで《聖天姫 エクシア》に触れないようにしながら、アンビションによって捨てられる手札を1枚《羅輝石 ドラゴアゲート》でエナに置くことで、LUKE選手は実質的にリソース消費なしで1点分の要求を作り上げる。アタックフェイズに入れば、その膨大な手札がすべてエナに変換された。
有効なライフバーストの発動する可能性を、そしてルリグアタック時のシグニ1面トラッシュ送りというディスアドバンテージを突き付けるべく、サトー選手は《聖魔姫 アリオーシュ》の自動効果の解決を選択。
そして、1枚目にクラッシュしたライフの《サーバント #》でサトー選手の手札が補強されたことで、LUKE選手の手が止まる。《聖魔姫 アリオーシュ》の効果によりルリグアタックをするならば、自分のシグニを1枚トラッシュに送らなければならない。点数を詰めていくことも大事だが、一方で2枚というライフを詰め切られないように立ち回る必要もあったのだ。
《聖魔姫 アリオーシュ》の効果によって《羅輝石 ドラゴアゲート》はアタックができず、ライフバーストのケアができない状態。もし《羅輝石 ドラゴアゲート》さえも除去する手段が入っていると考えるならば。あるいはライフバーストによって、《羅輝石 ドラゴアゲート》が除去されてしまえば。ライフ2枚、リコレクト未達成、手札0枚という今の状況ではかなり敗色濃厚であることが判断できる。
LUKE選手のデッキ枚数は残り少なく、そのうち下にある3枚は《玉石混煌》で確認済み。そこまでの情報を得ているLUKE選手のリスク管理的には、この負け筋はかなり“濃い”ものだったのだろう。彼はこのゲーム2度目となる、アップ状態のルリグを残したままでのターン終了を宣言した。
そして少なくとも、返しのサトー選手はゲームを決着させきることができなかった。
都合2枚の《聖天 アークアテナ》によってLUKE選手の《羅輝石 ドラゴアゲート》以外のシグニが除去され、《蒼将姫 ヤマトタケル》と《プリパラアイドル ファルル》によってその手札がもぎ取られる。このルリグ込み3点要求の盤面を、LUKE選手は《炎官鳥》1枚のみで確実に耐える状況に持って行ってみせた。
ここで1枚目のライフから《聖天 ハニエル》がめくれたせいか、サトー選手もルリグアタックをすべきか一考。最終的に、どちらのルリグもアップしたままという異様な状態でターンは往復することとなる。
次のLUKE選手のターンで、先ほどのターンの答え合わせが行なわれた。
4枚残っていたアーツの中から《セイクリッド・フォース》《断炎轢断》を順番に発動していくLUKE選手。そこでクラッシュした相手のライフから――もしも、さっきルリグアタックをしていたならクラッシュしていたライフから――ライフバーストの《聖魔姫 アリオーシュ》が、姿を表したのだ。
実際にはLUKE選手のライフ1枚目に《聖天 ハニエル》が埋まっていたため、《炎官鳥》と合わせれば3点要求をされても耐え切れたと言われればそれは否定できないだろう。だとしても、少なくとも最も負けのリスクが高くなるタイミングが、明確な意志によって回避されていたことだけは疑いようがなかった。
ライフが1枚残ったという点を逆手に取り、LUKE選手は《セイクリッド・フォース》の効果をルリグバリアの付与とデッキからのカード回収で解決する。場にはレベル2以下のシグニしか並ばず、デッキは残り1枚。このターンの攻撃は1点だけなので《フローズン・ギア》で耐えきられてしまう。けれど、上手くいけばライフとルリグバリアで1ターン、《不敗炎話》で最低もう1ターンが生まれる。そしてその2ターンの間、相手には防御アーツは存在しない。
もしくは、《不敗炎話》を撃たずにリソースを残したままもう1ターンが作れれば、ダブルクラッシュも重ねてギリギリで走り切れるかもしれない。
すべては、サトー選手の次のターンの動き次第だった。
後攻5ターン目、場の《夢限 -Q-》がリミット9となることで《夢限 -A-》へと裏返り、ライフと除外以外のすべてのカードが一旦シャッフルされる。この5枚ずつのドローとエナチャージ次第で大きく戦況が動くことは、「夢限」の名手であるサトー選手も承知のうえだろう。
「よし!」そう一言、気合を入れて引いた5枚の手札を見て、彼は……
ちょっと残念そうに「ひえぇ」と声を上げた。点数要求か、あるいは盤面を固めるためのカードか。何かは不明だが、その何かが足りていないことだけは確か。
それでも、《リゲット・バイブル》は引けていた。完全に残念がるにはまだ早い。すぐにデッキの上から5枚をめくり、「となると……」と呟きながら進行を詰めてゆく。
満を持して動き出したサトー選手の瞳が、微かに輝くように見えた。
《夢限 -A-》の効果で1面。《聖天 アークアテナ》が2枚出てきて、2面。LUKE選手のシグニゾーンががら空きになると《聖天 アークアテナ》がすべてリムーブされ、《聖魔姫 アリオーシュ》が突破困難な壁となり、《蒼将姫 ヤマトタケル》《プリパラアイドル ファルル》が今手札に戻されたシグニたちをそのままトラッシュへと叩き込む。
それは悔しいことに、LUKE選手の最後の希望を切って捨てるには十分すぎる盤面形成だった。
残るライフクロス1枚で攻撃を受け止めきれないことなんて、LUKE選手本人も分かり切っている。彼は《不敗炎話》を撃つしかない。
返しのターン、《セイクリッド・フォース》でデッキの最後に残していたカードは《リゲット・バイブル》。リソースさえ、もしくはターンさえあれば戦えたかもしれないこの状況を、しかしここからひっくり返す手段はどうしても生まれない。
《羅輝石 ドラゴアゲート》2枚を手札に加えたLUKE選手は、その2枚をそのまま場に出したのち、観念した様子で、苦笑しながらターンを終える。
残り1枚が防御アーツである可能性までしっかり考慮し、サトー選手が油断せずにシグニ2点・ルリグ1点の点数要求を作り上げると、LUKE選手は残念そうに敗北を受け入れた。
勝者:サトー選手
「必要な勝利」をまたひとつ重ねて、サトー選手が「よし」と小さく頷く。
ひとつ、ひとつ。地道に必要なことを重ねていく。それは決して容易なことではない。
けれど、彼は「夢限」の名手。そして<夢限>は今も昔も変わらず、登場してからずっと、1ターン1ターン発動する効果を積み重ねて戦うルリグである。
変わらずに、また1ターンを、ひとつの勝敗を、ひとつの年を積み重ねていく。彼はきっと、ずっとそうしてきたし、今からもそうしてゆくつもりなのだろう。











