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対話と評価

有識者コメント

2017年度

タカラトミーグループのCSRの各重要主題における取組への期待について、有識者の方にお聞きしました。

有識者コメントEXPERT COMMENT

西山浩平氏

西山 浩平

株式会社CUUSOO SYSTEM
代表取締役社長

東京大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1997年「空想生活(現 CUUSOO SYSTEM)」を設立。ユーザーと企業が共創し、新商品開発を実現するWebサービス「CUUSOOプラットフォーム」を提供。クラウドファンディングの先駆者として商品開発をサポートする。現在は、先端科学技術とそれをもっとも必要としているユーザーへのマッチングを可能にするテーマに取り組んでいる。東京大学先端科学技術研究センターに設置する「かみロボット研究室」では、貧困社会の教育を変える科学教育プログラムを研究している。

重要主題1 ものづくりのこだわり

CSRプロジェクトの1年目から、大胆な情報開示に取り組まれ、結果を出されたのは素晴らしいことだと思います。今後は、「タカラトミーらしいCSR」を進めていかれることに期待いたします。

タカラトミーグループには、ヒット商品を生み出してきた歴史があります。適正な価格で商品を提供する一方で、子どもが安全に遊べるものづくりに真摯に取組む姿勢があるからこそ、愛される商品が生まれてきたのでしょう。歴史を振り返れば、その中にはすでに、長期に渡り事業を続けてこられただけの理由が含まれています。これまでものづくりを継続するために行ってきた、目立たなくても重要なことを忘れないようにする取組こそが「タカラトミーらしいCSR」なのだと思います。このことは、ユーザーを始め、ベンダーや投資家には伝わりにくいものです。「タカラトミーらしいCSR」を考える時、会社をよく見せるための「お化粧」ではなく、根源的な経営課題として取り組んでいる内容を、そのまま伝えるのが重要だと思います。

長い歴史の間には失敗もあったと思いますが、自社の歴史の中の失敗を振り返って分析し、そこから得られる学びを継承していく姿勢があるからこそ、タカラトミーのものづくりは継続してきたのでしょう。したがって、失敗からリスク回避のメソドロジー(方法論)を学ぶ姿勢を公開することで、企業としての継続性を市場が感じられるようになるのだと思います。「タカラトミーらしいCSR」とは、歴史がある会社だから積み重ねることができるものづくりの姿勢が、長期にわたる事業継続、企業価値向上へとつながっているのだということを共有できるようなCSRではないでしょうか。

その道筋として次のステップは、タカラトミーグループの考え方を言語化し共有していく、事業の判断基準となる独自の「CSRのものさし」を作ることです。グローバルで成長を目指していくうえで、CSRは従業員が一丸となって事業に取組むために重要なものです。経営陣やステークホルダーと十分な議論を尽くし、1年後には「ものさし」も完成させ、その後時代に合わせて更新していくことで「タカラトミーらしいCSR」を進めていくことを期待しています。

EXPERT COMMENT

水口剛氏

水口 剛

高崎経済大学 経済学部 教授
経営学博士

1984年ニチメン(株)、1989年英和監査法人、1990年TAC(株)、1997年高崎経済大学講師を経て現職。専門分野は環境会計・責任投資。1990年代より米国の社会的責任投資(SRI)を調査し、日本における責任投資の第一人者。

重要主題2 健全な経営の実行

タカラトミーグループはCSRの取組開示に取組んでまだ日が浅いですが、実際は以前から着実な活動を続けてきました。なかでも共遊玩具やエコトイの取組とその基礎にある考え方は、評価されるべきものだと思います。

タカラトミーグループで印象的なのが、従業員が生き生きと働いている姿です。人を楽しませる企業だからこそ、楽しく働ける職場づくりを今後も大切にしてほしいと思います。加えて、人権や労働に関する方針策定や目標設定など、課題把握と解決に向けた取組に期待します。
一方、今後ますます重要となるのがサプライチェーンにおける取組です。どこからどのような原材料を調達しているのか。それぞれのプロセスにおける労働環境や人権問題をどう管理しているのか。しっかりと把握し、課題があれば改善していくことが求められます。

このような取組を推進するためには、社内体制を整えることが重要です。そのためにもグループおよびサプライチェーン全体の情報を集約し、方針策定や取組の推進を担うCSR部署の設置をお勧めします。幸い、タカラトミーグループの経営陣はCSRに理解をお持ちですので、全社的な体制を整え長期的な経営戦略としてCSRに取組んでいってほしいと思います。

小さいころに遊んだおもちゃは心の底に残るので、おもちゃは文化に関わります。心を育む良いおもちゃをつくることで、子どもたちに喜んでもらう。そしてゆくゆくは成長した子どもたちが、今度は自分の子どもにもタカラトミーのおもちゃを買ってあげる。そうした循環が生まれることで、社会に貢献し、持続的な成長につながります。おもちゃで子どもを幸せにする企業として、世界中の子どもたちを幸せにし、平和を広げる、タカラトミーグループらしいCSRに期待しています。

EXPERT COMMENT

鈴木弘幸

鈴木 弘幸

環境省
大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部
リサイクル推進室

2006年から環境省総合環境政策局環境教育推進室での子ども向け環境教育プログラム企画等を経て現職。現在は東京2020オリンピック・パラリンピックの入賞メダルをリサイクル金属から作る、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」や「学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進実証」等を担当する。

重要主題3 社会・地球環境との共存

「エコトイ」の基準に、省資源や再生材の使用など製品としての工夫だけでなく、子どもたちの「環境配慮の心を育む」視点が含まれている点は、とても素晴らしいことではないでしょうか。

エコトイはラベルをつけることがゴールではなく、それをユーザーにどう浸透させるかが大切なポイントです。子どもたちは、小学校4年生でリサイクルについて学びますが、環境教育は言葉や概念から入ると自分ごと化しにくいという難しさがあると言われています。しかし、おもちゃは子どもたちにとって身近なもの。「遊ばなくなって捨ててしまったおもちゃはどうなったのだろう…」と自らの体験からイメージさせる力を持っているので、エコトイでの遊びの中で環境に配慮する心が育まれるというのは、とても素敵なことだと思います。

またエコトイを使った高学年向けの出張授業は、おもちゃを通じたキャリア教育の視点も充実しています。タカラトミーのおもちゃで遊んできたことが未来の社会づくりにつながり、その中に自分の役割があると認識することで、子どもたちの自己肯定感の醸成にも役立つのではないかと期待しています。

国内の子どもの数は1,600万人ほどですが、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんまでを含めると最大6,000万人を超える方々が、その子どもの成長を見守っている計算になります。これからは子どもたちの背後にいる家族も含めたより広い視点に立ち、葛飾から日本全国、世界各国までを見据えて、三世代のすべての人たちに、おもちゃを介した学びを届けていけるようエールを送ります。

子ども時代の記憶は未来への架け橋です。子どもたちの記憶の中にずっと残っていく、おもちゃにしかできない未来の人づくりに、これからも取組んでほしいと思います。

有識者との対談EXPERT TALK

● 参加者

河口 真理子

大和総研 調査本部 主席研究員

一橋大学大学院修士課程修了後大和証券入社。外国株式、投資情報部を経て大和総研に転籍、アナリスト、翻訳業務、環境コンサルタント、CSR及び社会的責任投資の調査研究に従事。2010年より大和証券グループ本社CSR室長~広報部CSR担当部長。2011年大和総研に帰任、2012年より調査本部 主席研究員。担当分野はサステナブル投資/ESG投資、CSR/CSV、ソーシャルビジネス、エシカル消費。国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン理事、NPO法人・日本サステナブル投資フォーラム共同代表理事。アナリスト協会検定会員、サステナビリテイ日本フォーラム評議委員他

(写真中央:河口 真理子氏)
(写真中央:河口 真理子氏)

● タカラトミー参加者

  • 沓澤 浩也
    CSR推進プロジェクトオブザーバー
    常務執行役員 CFO
  • 菅谷 茂美
    CSR推進プロジェクトリーダー
  • 竜野 聡
    長野 紫穂

    CSR推進プロジェクト事務局

フレームワークを作り、全員参加の推進体制を

河口:御社の強みは、日本人で知らない人はいないということ。説明しなくてもみんなが子どものころから知っていて、懐かしい感じがする。その強みを活かして、何を訴えかけるのかが大事です。弱みは、まだCSRの取組みを始められたばかりで、体系立っていないこと。CSR戦略のフレームワークが見えないので、外からは何をしているのか分かりにくい点が課題です。世界が直面する社会課題を網羅したSDGsなどを組み込んでフレームワークを作ると、動きやすくなるはずです。
また推進体制として、各部署にインフルエンサーを置くことは重要です。CSRの専任部署を作るのも一案ですが、その部署に全て任せがち、他はタッチしないという傾向がみられるので、各部署の担当がメンバーとして参加し、全員でコミットする、横断的なプロジェクトチームを継続していかれるとよいと思います。ただCSR担当は事務局運営をやることになりますが、SDGsをカバーするとなると、やることがたくさんありますので、事務局自体の機能は強化した方がよいでしょう。

タカラトミー:CSR推進プロジェクトとして、1年目はグループ全体から幅広くメンバーを選出し、20名以上が参加する体制でやってきたのですが、基盤ができたので、2年目からはより小回りが利く人員体制とすることを考えています。フレームワークを作っていく上では、どういう枠組みにしていくことが重要でしょうか?

河口:先進的な企業では、2050年にCO2ゼロといった長期ビジョンを掲げる企業が出てきています。御社の場合は、2024年の創業100周年を見据えてはどうでしょうか。たとえばSDGsの目標から自社の活動と特に関わりの深い課題を見つけ、その解決につながる数値も含んだ目標を立てていく。
目標を立てたら、社内で共有することが大事です。CSR関連の質問が個別の部署に来た場合にも、CSR部署ではなくその部署の担当者がしっかりとした答えを返せる形が理想です。

注目すべき課題

河口:特に注目すべき課題としては、サプライチェーンでの労働環境、児童労働などの人権問題です。おもちゃ業界でもキャラクター製品の下請け工場で児童労働があり、社会問題になったことがありました。アパレル業界では、バングラデシュの縫製工場の事故から下請け工場の劣悪な労働環境が明るみに出て、業界全体での改革を迫られています。NGOは企業に対してネガティブキャンペーンを張る場合、ストーリーが分かりやすく発信の効果が高い企業に注目しています。おもちゃ、特に御社の製品はみんな知っているし、下請け工場でのリスクはあると思います。おもちゃを作っている工場のトレーサビリティを高めていく必要があります。

タカラトミー:アジアの工場はほぼ毎月訪問し、コミュニケーションをとるようにしています。社会からの要請と、労働者の希望との双方に耳を傾けながら、働きやすい職場環境を実現していくことが重要だと考えています。

河口:そういう情報は是非積極的に公開されるとよいと思います。いかに透明性をあげているか、サプライチェーンを配慮しているか、は重要です。
そしてダイバーシティも重要なテーマです。社長が外国籍なのはダイバーシティの観点からとてもよいのですが、役員が全員男性という点が気になります。女性の役員がいない=ダイバーシティがない、と思われてしまう可能性があります。現在、様々な業種、業態で女性の役員が活躍しています。御社の経緯をみるとおもちゃ作りの職人文化があったから、という事情だと思いますが、子どもの教育に関わる業界でもあることを考えると、役員の半分以上が女性でも良いくらいと思います。

タカラトミー:女性管理職については、2021年に比率を全体の15%にする目標を設定しました。課題意識を持って、短期と中期、両方の視点から取組んで行こうと思います。

河口:さらにこれからは、資源の問題にも注目していただきたいです。どういう資源を使うか。素材はこのままでいいのか。遊ばなくなって不要になったおもちゃをどうするのか。おもちゃは簡単に捨てられないし家電のようなリサイクルシステムもないです。また海洋汚染につながる廃プラスチックの問題は国際的にも関心が高まっています。長期的な視点から、資源や廃棄物のリサイクルについて、考え方や目標を示していただきたいです。

タカラトミーグループへの期待

河口:おもちゃづくりで培ってきたノウハウを活かし、社会・環境問題の解決に資するおもちゃやゲームを開発する、といった取組みに期待しています。学校教育で使える社会課題の理解につながるゲームや、働く親を支援するおもちゃなど。専門家と一緒にシニア向けの製品を開発し、老人ホームなどで使っていただきながら科学的なデータを蓄積していくのもよいと思います。おもちゃは考えてみると、深いもので、使い方によっては意識変革にはすごく有効なツールではないでしょうか。遊びを通じて学ぶと、どんどん頭に入りますよね? 遊び心を通じてできることはたくさんあります。CSRはまじめな勉強・義務と思われがちなので、おもちゃを使った楽しい取組は「タカラトミーならでは」と、高く評価されると思います。
御社ではロングセラー商品を多くお持ちですが、時代の変化に合わせて、次の25年、50年を見据えて考えることは大事です。トミカやプラレール、リカちゃんのように親から子へと時代をつなぐおもちゃがあるのは、素晴らしいことです。社員の方々と「今の子どもたちが大人になった時に、次世代にどんなおもちゃを与えたいか」という発想を持ってもらうとよいです。それが、タカラトミーらしい社会を変える活動につながっていくはずです。

タカラトミー:お話を伺い、おもちゃは遊びのためのものですが、社会の課題解決にもつながるいろいろな付加価値をつけられると感じました。活動は一つ一つ積み重ねていくしかないですが、95周年、100周年、さらにその先を見据え、タカラトミーらしい活動に取組んでいきたいと思います。