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対話と評価

有識者コメント

2018年度

タカラトミーグループのCSRの各重要主題における取組への期待について、有識者の方にお聞きしました。

有識者コメントEXPERT COMMENT

伊吹文昭氏

伊吹 文昭

月刊トイジャーナル
編集長

明治36年(1903年)創刊の玩具業界専門誌「トイジャーナル」編集長。1974年に東京玩具人形協同組合トイジャーナル編集局入職。1996年に編集長就任。2004年に東京玩具人形協同組合事務局長就任。40年以上にわたり日本と世界の玩具業界や玩具企業を取材し、日本の玩具業界の活性化や発展に向けた提言や執筆活動等を行っている。同時に(一社)日本玩具協会専門委員、(一財)日本玩具文化財団評議員、(一財)日本おもちゃ図書館財団助成事業審査員、(一財)富山文化財団評議員として文化的な活動や社会貢献活動を行っている。

おもちゃの社会的役割や機能を検証しながら、社会の変化にいち早く対応することでおもちゃ産業の新しい可能性を広げてほしいと思います。

おもちゃの新しい可能性を広げることがタカラトミーの役割だと考えます。そのためには、開発力は不可欠です。タカラトミーは開発力の強化を進めておられますが、おもちゃの新しい可能性を広げることで企業としての発展のみならず、玩具産業の発展につなげ、そのことを通じて広く社会に貢献できると思います。そのためには玩具や遊びの役割、機能を地道に研究・検証することも必要でしょうし、そうしたことを行う大学や教育機関、あるいは研究者と連携したりサポートしたりすることも有効でしょう。

玩具専門誌トイジャーナルでは毎年1回、玩具業界各社の経営者が集まって世界の玩具企業や玩具協会を訪問する「トップツアー」を行っており、4年ほど前には北欧を訪問しました。北欧では社会課題への関心が高く、環境に配慮した素材開発や製品づくり、ジェンダーニュートラルな取組みなど、様々な先進的な企業活動を目の当たりにしました。ツアーに参加したタカラトミーの富山会長も、その後強い意志をもってCSRに取組み始められたと感じています。

ジェンダーについては、将来的には日本でもボーイズ・トイ、ガールズ・トイという枠組みの再検証が求められるのでないかと感じています。欧米ではNGOからの指摘をきっかけに、6、7年ほど前から玩具売場からボーイズ、ガールズの表示がなくなり始め、2017年からは米国のトイ・オブ・ザ・イヤー(おもちゃ大賞)からボーイズ・トイ部門、ガールズ・トイ部門がなくなりました。カタログでもジェンダーの固定観念を助長するような表現や写真は控えるようになっています。日本でも遠くない未来にそのような対応が必要になるとと感じていますが、この問題はメーカーにとってだけでなく、小売業にとっても大きな課題であるだけに、製販三層※1が一体となっての取組みがいずれ必要になってくるでしょう。さらに欧州などでは、子どもに対する宣伝・広告についてもかなり厳しい規制があります。自我や判断力が確立していない子どもへの過度なテレビ宣伝が問題視されており、こうした動きもいずれ日本に波及してくる可能性は否定できません。

そうした社会的動向の変化がある一方で、おもちゃから社会を変えていくというアプローチも考えられます。おもちゃは社会や家庭の縮図ですから、そこで起きていることをおもちゃの世界に取り込み、夢中になって遊ぶことを通して固定観念にとらわれない柔軟な心を育てたり、社会課題を解決するための糸口を考えることもできるはずです。新しい技術や素材の開発や活用で、新しいおもちゃや遊びの世界を切り開いたり、例えばリカちゃんのような“ごっこ遊び”に今の時代のライフスタイルを反映させることで、新しい親子関係、友達関係、食生活などを提案したりすることも可能かもしれません。タカラトミーには、おもちゃの社会的役割を社会や子どもたちに伝えていくことを出発点に、おもちゃ産業の新しい可能性を広げていってほしいと思います。

※1:製造業(メーカー)、卸売業(問屋)、小売業(販売店)のこと

EXPERT COMMENT

河口真理子氏

河口 真理子

大和総研グループ
研究主幹

一橋大学大学院修士課程修了後大和証券入社。外国株式、投資情報部を経て大和総研に転籍、アナリスト、翻訳業務、環境コンサルタント、CSR及び社会的責任投資の調査研究に従事し、現在は大和総研 調査本部 研究主幹。担当分野はサステナブル投資/ESG投資、CSR/CSV、ソーシャルビジネス、エシカル消費。国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン理事、NPO法人・日本サステナブル投資フォーラム共同代表理事。アナリスト協会検定会員、サステナビリテイ日本フォーラム評議委員他

「子どもたちと友だちになる」ためには、
“子どもはどう考えているのか”が分かるようなコンテンツがあると望ましいですね。
大人と対等な立場で子どもたちの声を取り入れてみてください。

タカラトミーは前回の対談以降、CSRの骨子とあるべき姿「世界中の子どもたちと友だちになる」を策定しました。その実現に向け、トップダウンとグループ横断プロジェクトによるボトムアップの両輪で取組む姿勢は、タカラトミーらしくてとてもいいと感じます。ただ、現状の開示内容は大人目線の報告に留まっているように感じます。「子どもたちと友達になる」ためには、“子どもはどう考えているのか”が分かるようなコンテンツがあると望ましいですね。例えば“子ども大使”の任命や対話などにより、大人と対等な立場で子どもたちの声を取り入れてみてください。また、「世界中の子ども」と掲げているなら、難民、貧困、引きこもりなど、まだ楽しくおもちゃで遊べていない子どもたちに対してのアプローチも検討してはどうでしょう? おもちゃは子どもの人格形成において大切な役割を果たすものです。楽しいおもちゃで遊んだ豊かな思い出や経験をもつ子どもは、大人になり豊かな社会づくりに貢献できるはずです。おもちゃだからできる貢献を深堀したビジョンがあると、SDGsの目標4への貢献を通じて「誰一人取り残さない」につながると考えます。

CSRの重要課題の1つに「CSR調達」が含まれていますが、公正な労働条件のもとおもちゃがつくられているかは、大変重要です。もしサプライチェーン上で児童労働などに間接的にでも関与していれば、“子どもを大切にする”という今まで培ってきたブランドに大きな影響を及ぼします。そのため、サプライチェーン全体について労働状態は細かく状況を把握することが必要だと思います。また、「環境マネジメント」は、多品種で様々な素材を使うおもちゃの商品特性上単純にCO2を減らすのは難しいとは思いますが、違う観点でできることは沢山あります。世界的に脱プラスチックの声が大きくなる中で、箱潰れや在庫調整などで廃棄される製品など、産業廃棄物を減らす取組みは今後ますます注力しなければなりません。素材の脱プラスチック化もモノによっては必要となるでしょう。さらにパッケージの簡素化も重要です。ラッピングや箱でワクワク感が増すことは理解できますが、日本の商品は過剰包装なのでイノベーションの余地があると感じます。子どもたちも、おもちゃを貰ったらゴミが沢山出るのは、ちょっと後ろめたい気になるのではないでしょうか。

グローバル展開を目指すタカラトミーにとって、ジェンダー視点への対応は今後ますます重要になります。最近では「リカちゃん」が回転寿司屋の板前さんになるなど、自由な発想で商品が展開されていることは、大変印象深いです。このような性別による役割の固定意識にとらわれないおもちゃをさらに広めていくためにも、ガールズ・ボーイズの垣根は早急に取り払うことをおすすめします。性別に由来しない商品開発の体制や、社内横断的な情報共有を行うなど、社内体制の見直し・改善を期待します。また、商品における社内の意思決定プロセスにもジェンダーの視点を取り入れるなど、タカラトミー全体で見直しを進めて、サステナブルな心を育むおもちゃ作りにまい進していただきたいです。

(ご参考:後日「タカラトミー子ども座談会」を開催しました)

EXPERT COMMENT

笹谷秀光氏

笹谷 秀光

社会情報大学院大学客員教授
CSR/SDGsコンサルタント

東京大学卒業後、1977年農林省(現農林水産省)に入省し環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年伊藤園入社、取締役、常務執行役員等を経て2019年4月退職。同年4月より現職。行政経験とビジネス経験を活かし、企業の社会的責任(特に、企業ブランディングと社員士気の向上を通じた企業価値向上など)やSDGsについて、アドバイザー、コンサルタントとして、幅広く活動を行っている。
■笹谷秀光公式サイト https://csrsdg.com/

SDGsという世界共通言語で、
ぜひタカラトミーの思いを“みんなに見えるもの、
伝わりやすいもの”にして発信してください。

タカラトミーでは、本業と関連の深いSDGs目標を絞り込み、CSRの骨子の中に取り入れられていますね。今後、重要課題の特定プロセスの中で、事業とSDGsをマトリックス化し169のターゲットまで落とし込んではいかがでしょうか。事業を通じて何に貢献できるのかを漏れなく把握し、自社の特性を見極めることができます。

SDGsはブランド戦略にもつながることを意識していただき、チャンスとリスク管理の両面から活用することをおすすめします。例えば、タカラトミーのCSRの骨子には6つの目標が含まれていますが、特に教育に関する目標4は、タカラトミーが幅広く貢献できる分野ですね。科学や文化などを詰め込んだレベルの高いおもちゃは、質の高い教育そのものです。次世代教育を身近なおもちゃで行なっているというのは、非常に重要なタカラトミーの要素です。SDGsでは持続可能な社会のために次世代を育成することを重視していますし、日本政府が掲げているSociety5.0※2の次世代育成にも大きく貢献できると思います。さらに、「共遊玩具」の取組みはSDGsの「誰一人取り残さない」の包摂性があり、世界に打って出るべき活動です。おもちゃの喜びをあらゆる子どもたちに体験していただき、おもちゃでの教育(目標4)を通じて他の目標にも間接的に貢献する、結果として企業ブランドの向上につながります。一方で環境関連の目標については、他のグローバル企業がすでに具体的な目標を立てていることを考慮すると、タカラトミーも深く検証しておくべきかと思います。特に環境・社会面でのサプライチェーンマネジメントは、しっかり取組まなければリスクにつながります。

また、SDGsは子どもから大人まで使える世界共通言語で、コミュニケーションツールとしての役割も果たします。私が思うに、SDGsには17の目標を達成し「誰一人取り残さない」を実現したその先は、まだ「夢」が語られていません。タカラトミーから思い切ってSDGsの18番目の目標として「夢」を発信してもいいかもしれませんね。社員みんなが共通言語で発信できるよう、社内浸透も大切です。ぜひタカラトミーの「夢」や想いを “みんなに見えるもの、伝わりやすいもの”にして発信してくれることを期待しています。

※2:Society5.0: 日本が提唱する未来社会のコンセプトであり、「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く、人類史上5番目の新たな社会のこと。Society 5.0では、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノをつなげることにより新しい価値やサービスを創出し、経済発展と社会課題克服の実現につなげることを目指している。

EXPERT COMMENT

梅津光弘氏

梅津 光弘

日本経営倫理学会
会長

慶應義塾大学卒業後、米国のLoyola University of Chicagoの博士課程を経たのち、米国や仏国の大学で教鞭をとる。現在は、慶應義塾大学商学部准教授、慶應義塾大学大学院商学研究科准教授である傍ら、企業倫理学会の会長を務め、現代企業をとりまく様々な倫理的課題事項を理論,実践,制度の側面およびそれらの相関関係の視点からとらえるため、日本企業が果たすべき企業社会責任と、それに対する適切な対応,政策等の考察を行っている。

100周年を見据え、
タカラトミーにはCSRと経営をしっかり重ねられるような
会社になってほしいと思います。

タカラトミーは国内ではおもちゃづくりに長い実績をもつ、信頼されているメーカーです。ただ、日本では通用している企業名や商品ブランドも、海外で同じように通用するわけではありません。新たな市場として海外に本格進出していこうとするならば、タカラトミーがどのような姿勢の会社なのかを知ってもらう必要があります。そこで世界共通目標SDGsへの貢献を示すことで、未開拓の市場でも話が通りやすくなり、新たなニーズを把握することができます。SDGsはグローバル市場に出ていくときの後ろ盾になるのです。

SDGsの中でも、教育分野における貢献は非常に重要です。1950~60年代の日本の主力産業はおもちゃでした。おもちゃの開発に始まり、家電や自動車などの更なる技術革新へと発展していったのです。おもちゃを海外で展開することで、その地域の子どもたちがおもちゃを通じて科学や機械などに関する様々な原理を学び、その子どもたちが大人になって社会を作る。おもちゃは単なるエンターテイメントではなく、教育、そして産業の基盤になるものだと思います。

ユーザーである子どもの権利といった視点も大切です。おもちゃの最終的な消費者は親御さんですが、ユーザーは子どもたちであることを忘れてはなりません。子どもは自分でものの良し悪しの判断をする力が十分ではなく、“おもちゃ”というだけでとても欲しがってしまいます。企業側の過度な宣伝の姿勢は、子どもの弱い立場を利用しているように受け取られてしまう可能性もあります。社会の中で弱い立場にいる子どもを守り、子どもの権利を最大限保障する姿勢が大切です。

さまざまな要素をもつCSRを推進するには、社内浸透が大切です。事業を通じた社会への貢献は、中長期で見ると従業員のモチベーションがあがり、生産性、ブランド力の向上につながります。もうひとつ不可欠なのが、トップのコミットメントです。取締役など経営を預かっている人がSDGsを真に理解できているでしょうか。 CSRを体系的に取組み初めてから、売上やブランド価値の反映までにかかる期間は6年という研究結果があり、ちょうどタカラトミーの100周年とも重なります※3。100周年を見据え、タカラトミーにはCSRと経営をしっかり重ねられるような会社になってほしいと思います。

※3 インタビュー実施 2018年12月

EXPERT COMMENT

星川安之氏

星川 安之

共用品推進機構
専務理事

学生時代、重度重複障害児の通所施設に通い保育士の仕事を手伝った経験から、障害のある子どもたちも遊ぶことができる玩具の開発を目指し、1980年トミー(現タカラトミー)に入社。視覚障害のある子ども専用の玩具開発から、障害の有無に関わりなく遊べる玩具(共遊玩具)に発展。1999年に(財)共用品推進機構を設立。「共用品」を玩具以外の製品やサービスに普及させることを目指し活動を広げる。現在は、国際標準化機構(ISO)と連携し、活動を世界に広げる取組も行っている。

タカラトミーらしい冒険心を持ち、
自由な発想で“楽しさ”を含めた目標やロードマップを
作っていくことを期待します。

タカラトミーのCSR重要課題を拝見し、体系的に取組み始めてから短期間でここまで進められていることは素晴らしいと感じました。

ただ多くの企業は、CSRの各種ガイドラインやSDGsのゴールがあると、そこが“最高点”と思ってしまいがちです。タカラトミーは、子どもたちから愛されるおもちゃを作り続けてもうすぐ100年になりますね。子どもから大人までたくさんのファンを持つタカラトミーなのですから、国際的なフレームワークに従うだけでなく、タカラトミーらしい冒険心を持ち、自由な発想で“楽しさ”を含めた目標やロードマップを作っていくことを期待します。

ユニバーサルデザインや多様性への配慮についても、既存のガイドラインに沿って取組むだけでなく、「タカラトミーはすべての子が“一緒に”、“楽しく”という姿を本気で目指しているからこそ、ホンモノだ!」という独自性を示すことができると思います。

ユニバーサルデザインについては、未だに福祉用のデザインだと思っている人が大勢います。現在取組んでおられる目や耳の不自由な子どもたちも一緒に遊べる工夫をした「共遊玩具」も、もっと対象となる人の範囲を広げることをご検討されてはいかがでしょうか。やってみて初めて、対象としていた人たち以外のステークホルダーのニーズを知ることもあります。タカラトミーが「共遊玩具」の取組みを続けて約40年になりますが、先人の行なったことを “守らなければならない”という使命感のようなものがあると、その先に発展しづらくなってしまいます。「共遊玩具」だけでなくその他にも取組んできたCSR活動の良いところは残しながらも、更なる発展を目指して今あるものを壊す勇気をもって進めてほしいと思います。包容力があり、自由で楽しいCSR、それが「タカラトミーのCSR」だということを、社内でもしっかり浸透させてください。

最後に、“子どもに伝えるCSR”を検討してみてはいかがでしょうか?CSRには難しい言葉がたくさん登場します。しっくりする言葉がなければ、自分たちで作ってしまう!タカラトミーには、そんな自由な発想でCSRに取組んでいってもらいたいと思います。