石川善樹氏×富山社長が語る、
アソビの価値と未来
タカラトミーグループは、2030年までに
「4.1億人の健幸(けんこう)価値をアソビによって創出する。」
ことを目標に掲げています。これは単なる事業目標ではなく、
アソビを通じて人々の幸せや繋がりを創出したいという想いを込めた宣言です。
なぜ今、タカラトミーグループは「健幸価値」の創出を目指すのでしょうか。
ウェルビーイング研究の第一人者である石川善樹氏と富山社長が、
「アソビ」の持つ可能性や企業の役割、
そして目指す未来について語り合いました。
石川 善樹 氏
公益財団法人 Well-being for Planet Earth
代表理事
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人と地球が調和するとは何か」をテーマとして、雲孫世代(9世代目の子孫、約200-300年後)にまたがる長期構想に取り組む。専門分野は、予防医学、行動科学、概念進化論など。
なぜ今、
「アソビによる健幸価値創出」
なのか
富山
タカラトミーグループでは2024年の創業100周年をきっかけに、企業としての存在意義を改めて見つめ直し、「アソビへ懸ける品質は、世界を健やかに、賑やかにできる。」というパーパスを策定しました。その過程で、アソビにはもっと深い社会的な意義があるのではないかと考えるようになり、「アソビの社会的な存在理由とは何だろう」と問い続けていました。そんなときに、ふと思い出したのが、以前、石川先生の講演でお聞きした「人の健康や幸せ──ウェルビーイングには、人と人との繋がりが不可欠である」というお話だったんです。
私たちは全国の子ども食堂におもちゃやアソビを届けることがあるのですが、何が欲しいですかと聞くと、ボードゲームなど複数人で楽しめるものが人気だったんですね。私たちはつい、キャラクター商品などが求められているのではないかと思っていたら、実際にはそうではなかった。理由をスタッフの方に伺うと「子ども食堂にはいろんな人が来るので、知らない人同士でもすぐに一緒に遊べるものが欲しいんだと思います」とのお答えでした。求められていたのはまさに人と人との繋がりだったんです。
そこからウェルビーイングについて深く考えるようになり、のちに石川先生にも直接お話しする機会にも恵まれました。そのときに「売上という数字も、どれだけ顧客のウェルビーイングに貢献したかを表す一つの指標として捉えることができる」というお話を伺って面白いなと。「健幸(けんこう)価値」という言葉は当社の造語です。ウェルビーイングという概念を私たちなりに分かりやすく表現したもので、アソビを通じて人々の健やかさと幸せに貢献したいという想いを込めています。
石川
損益計算書(PL)をウェルビーイングへの貢献度という観点から捉え直すウェルビーイング会計については、以前からいろんなところでお話しさせていただいています。PLは本来、株主に対して説明責任を果たすための計算書類ですが、その見方をちょっと変えてみましょう、ということですね。
例えば人件費なら単なるコストではなく、「従業員のウェルビーイングに対する貢献価値」と捉えることができます。同様に、原材料や商品の仕入れにかかる原価についても、PL上は費用として計上されますが、見方を変えれば仕入先の皆さんの事業やそこで働く人々のウェルビーイングへの貢献価値と捉えることもできます。ウェルビーイングの視点を入れることで同じ数字でも意味合いがまったく違って見えてくるんですね。最近では、ウェルビーイングは財務そのものの話だ、と言われるようにもなっています。
富山
子ども食堂で子どもたちが楽しそうに遊ぶ光景を見ていて、私たちがやっていることには、財務的な成果として表れる価値に加えて、人や社会に対する価値もあるのではないかと感じていました。石川先生がおっしゃるように、企業活動におけるあらゆるお金やモノの流れが誰かのウェルビーイングに影響を与えているという観点からPLを見直すと、自分たちの仕事も違って見えてくるんですよね。
石川
そう考えると、御社が掲げる「4.1億人の健幸価値」も、お客様や取引先、子ども食堂など地域・社会の皆さま、そして株主の方々など、すべての人を含めた健幸価値ということになるんじゃないかと思います。それぞれの人にとっての健幸価値とは何なのか、それにアソビでどう貢献できるのか……。
富山
そのとおりです。もちろんスケール感のある数字を掲げることは重要ですが、何より大切なのはその4.1億人という数字をひとくくりにせず、一人ひとりの健幸価値に注目することです。アソビを通じて、一人の子どもの一つの健幸価値にしっかり向き合うことを大切にしたい。私たちが本当に影響を与えられるのは、常に一人ひとりの人間だということを忘れないようにしたいと思っています。
アソビが持つ力とは
富山
トミカやプラレールのイベント、あるいはベイブレードやデュエル・マスターズで子どもたちが遊ぶ様子などを見ていても、アソビで人と人の繋がりを生み出せるという仮説は間違っていなかったと感じています。人は誰かと繋がれるからこそいろんな感情が生まれ、記憶が残る。アソビにはそういう空間を作れる力があると思うんです。
一方で、アソビと人の健康や幸せにどういう関係があるのかを、単なる感覚ではなく科学的なアプローチも含めて示していきたいというのが私の考えです。「4.1億人の健幸価値をアソビによって創出する。」を掲げた「タカラトミーグループの約束」のウェブページも、専門的なアンケート調査やさまざまな有識者との対話の機会を設け、その結果を反映させて作成しました。
石川
物事が世の中に広まるのは、「概念」「道具」「所作」が三つセットで揃ったときだと思うんですね。最近、サウナがすごく人気なのも、これまであった道具と所作に加えて「整う」という概念が出てきたからです。アソビが持つ力としての健幸価値も、シンボリックな概念・道具・所作が出てくると、もっと世の中に波及していくかもしれません。
富山
なるほど。私たちは災害の被災地にもおもちゃをお届けすることがあるんですが、現地の方たちのお話を聞くと、おもちゃって本当に必要とされているみたいなんですよ。被災地では、子どもたちは「また災害が起こるかもしれない」といった不安を抱えながら、非日常的な避難生活を送らなければならないなど非常に制約された空間にいるでしょう。そこにおもちゃがやってきてみんなで一緒に遊ぶことで、その場の空気が柔らかくなるんだそうです。アソビという体験には、不安を和らげ、人が安心できる状態を生み出す力がある。心理的な安全性に繋がるということなのかなと思います。
そういうアソビの重要性を一言で概念的に言い表せる言葉はなかなか思いつかないんですが、絶対に必要なものなんだという確信はありますね。
石川
そもそも「遊ぶ」という日本語は昔、「~あそばされる」というように、位の高い人に対して用いられる敬語表現でもあったんですよね。
つまり、「遊ぶ」というのはそのくらい価値のある行為だったんじゃないでしょうか。アソビは、年齢や立場も関係なく、誰もがいろんなしがらみから離れて、自由に想像力を羽ばたかせることができる行為。そして初めて会った人同士でもすぐに繋がれて、夢中になれる行為ですよね。
特に今は、小さいころから学校や塾などで、競争や評価にさらされ常に「何者かであること」を求められている子どもも多い。だからこそ、アソビの場のように「何者でもなくていい」時間が大切だし、その重要性を社会がきちんと認識することが今、必要になっている。御社はそこにアプローチできる数少ない存在だと思います。
ウェルビーイングと企業をめぐる国際的な潮流
富山
「何者かであること」を求められず、誰もが自分らしくいられる場って、今の社会では物理的にもずいぶん減ってしまっているのかもしれないですね。例えば、トミカ博をはじめとする私たちのイベントでは、子どもたちがどれだけはしゃいでも「うるさい」と怒る人は誰もいません。そういう場が貴重なものになっているのかもしれません。ある程度のルールを定めて安心安全を守りながら、誰もが自分らしくアソビに夢中になれる空間を作れるのが、企業としての私たちの良さなのかなと思います。
石川
今は、企業の持続可能性も様々な時間軸で評価される時代ですよね。日々の業績や企業価値はPLやEPS(1株当たり利益)、PBR(株価純資産倍率)といった財務指標で評価されます。一方で、より長期的な企業の持続可能性やレジリエンスを考える際に重視されるのが、ESG(環境=Environment、社会=Social、ガバナンス=Governance)という視点です。
ウェルビーイングは、ESGの中でも特に「S(Social)」と深く関連しています。その会社が社会のウェルビーイングにどのくらい貢献しているのか、あるいは社会のウェルビーイングが悪化すると、自社はどのような影響を受けるのかということが、長期的な企業価値の評価軸の一つになっています。近年では、ウェルビーイングと企業活動との関係性について、資本市場も注目するようになっているんです。こうした流れを受けて、TISFD(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures=不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース)といった、ウェルビーイングを含む人々や社会に関する影響・リスク・機会の情報開示の国際的な枠組みづくりも進められているところです。
御社が掲げる「アソビによる健幸価値創出」という取り組みは、こうした国際的な潮流を先取りしているとも言えるんじゃないでしょうか。
富山
ありがとうございます。アソビが社会にどんな価値をもたらすのかを、しっかりと言葉で説明できるようにすることは非常に重要だと捉えています。アソビのあり方そのものは、昔も今もそれほど変わりませんよね。ただ、先ほどのウェルビーイング会計の話のように、見方を変えることで見えてくる価値があります。「遊ぶ」という行為はあまりにも身近で当たり前に昔からあるものだから、私たちもその意味合いを深く噛みしめることもあまりなかったのですが、そこを追求していくことが、長期的な観点から見ても大切なことなんじゃないかと思っています。
アソビが作り出す
“being together”の空間
石川
ハワイのある家庭で親族や友人が集まって食事をしている時に話されていた言葉で、“We celebrate being together(私たちが共にいることをお祝いする)”という言葉がありました。人と人が共にいること自体を祝福する。その考え方に触れたとき、私はこれこそウェルビーイングの究極の形態の一つなんじゃないかと思ったんです。
というのは、仕事などで人が求められるのは往々にして“doing”、何をしたかですよね。そうではなくて“being”、その人がそこに共に「いる」こと自体を祝福できる。それこそがウェルビーイングであり、アソビが作り出せる世界なんじゃないかと思ったんです。
御社は「タカラトミーグループの約束」の中で、アソビを通じて提供できるアウトプットとして「高品質な夢中」「健やかに自分らしく」「賑やかな人と人との繋がり」を掲げておられますよね。夢中になる、自分らしくいるというのは“being”だし、人と人との繋がりはそのまま“together”。まさに“being together”であり、それによって健幸価値に貢献するんだと言っているように私には読めました。
富山
なるほど。アソビを英語に訳すと一般的には“play”ですが、肌感覚としてはそれだけには収まらないいろんなものが含まれているように感じます。それが“being together”であり、その状態になれる場所をつくることが私たちの役割なのかもしれないですね。
石川
今はAIの時代だと言われ、最近の大学生たちも「グループワークよりAIと話したほうが効率的だ」なんてよく言います。たしかにそういう面もあるんですが、 “being together”はやっぱり人間同士でしかできないことだと思います。
もちろん、人が生きていく上では“being”だけではなくて“doing”も重要ですから、そこを行ったり来たりできるようにすることが重要なのかな、と思いますね。
富山
私たちも日々の経営の中では、どうしても短期的な成果や経済的な価値にばかり目が向きがちです。しかし、タカラトミーグループが100年続いてこられた根本には、間違いなくアソビがあります。
健幸価値を経済的価値と同じくらい大切なものと捉えてみると、自分たちの事業や仕事の見え方は変わるんじゃないかなと思っています。アソビという行為の持つ深い意味、アソビの価値についてもっとみんなで一緒に話し合えるといいのかなと思いました。
今回、「タカラトミーグループの約束」を公開しましたが、これはゴールではなく新たなスタートです。アソビについて話し合えば話し合うほど、もっといろんなことが見えてくる気がするし、それこそが私たちにとってのサステナビリティでもあるはずだと思うので、今後も考え続けたいと思います。
2026年7月24日
